美蔓貯水池の欺瞞(15)導水管工事による自然破壊
昨日は、美蔓貯水池へ水を送水するための導水管工事をはじめたペンケニコロ林道に、工事の視察に行ってきました。現場の林道は鍵がかけられて、一般の人の通行が禁止になっているので、自然保護団体が北海道開発局帯広開発建設部に現地見学の申入れをしての視察です。はじめに開建から、ヘルメットを着用すること、指示に従うこと、ロープを張ってあるところは危険なので入らないこと、などの注意を受けました。
これまでの説明からも、直径80センチの導水管を埋設する工事というのは、かなり周囲の自然の破壊などを伴う大規模な工事になるとの感触を得ていたのですが、現場を見てそれがはっきりとしました。
まず、下の写真を見てください。取水場所です。林道とペンケニコロ川の間には植林地が広がっていたのですが、取水施設を造る場所から導水管のトンネルの出口(到達縦坑)まで、きれいさっぱり伐採され、景観が一変していました。取水施設を造るためには、迂回水路を造らなければならないために広範囲の改変が必要なのです。
取水施設は底生魚への配慮ということで、段差をつけない集水埋渠方式にするそうです。これは河床の下に網目状になったスクリーン菅を埋設し、浸透してきた水を取水するという方式です。魚の種名を尋ねると、絶滅危惧種だから言えないと拒否したのですが、種名の頭に「イ」のつく魚でも「オ」のつく魚でもないということでしたので、ハナカジカのことのようです。気になるのは、この川には粒子の細かい泥が堆積しているということです。伐採場所の土壌からも、川が泥を運んできていることがわかります。この泥でスクリーン菅が目詰まりを起こしてしまったら、十分な取水ができないのではないでしょうか。この方式がちゃんと機能するのかという疑問がわきます。
この巨大な構造物は、ミニシールド工法の発進縦坑です。緑の部分が排水処理装置とのこと。ナキウサギの生息地が広範囲に存在するP2地点では、生息地の改変を回避するとの理由で、導水管はトンネル(ミニシールド工法)にしたのですが、山の中にこんなに大きな構造物をつくって工事をするのです。
P2地点では、3人が岩塊地に入ってナキウサギの痕跡がないかどうかの調査をしたのですが、下のようなナキウサギの噛み切った植物が発見されました。この地点は、私たちの調査でも毎回のようにナキウサギの痕跡が発見されている場所です。トンネルだからといって問題がないというならその根拠を示すべきですが、そのようなものはまったく示されていません。
そればかりではありません。この林道では、重い工事車両が通行できるように既存の橋の上に橋を架ける工事をしました。「屋上屋」ならぬ「橋上橋」です。下の写真の橋のたもとの右側はナキウサギの生息地だったところですが、橋の工事で破壊してしまったのです。開建の職員はそのことには一切触れずに、残された生息地を指さして、「ここは生息地に対し林道の反対側に導水管を埋めることで改変を回避した」と説明しました。生息地そのものを破壊しておいて、「生息地の改変回避を図った」とはどういうことなのか。
こちらは、その下流にあるナキウサギ生息地(P3)です(林道の右側が生息地になっており、左側は川)。
ここでは、林道の下に導水管を埋設するのですが、林道のすぐ脇(林道の端から1メートルくらいだったでしょうか)にナキウサギが噛み切ったと思われる植物がありました。
ここでは林道の下を掘るために、河川の側に仮設の道路を取り付けるそうです。そのために木を伐採してしまうとのこと。そこで岩塊地の前に日よけの柵を設置するのだそうです(日よけの効果の検証など、なにもしていません)。こういう意味不明の対策も学識経験者のアドバイスなのでしょうか。
ナキウサギの生息地の目の前で重機がうなりをあげ、大型トラックが行きかう工事をするのに、影響がないなどということは考えられません。結局、「はじめに工事ありき」で、工事を強行するために、取ってつけたような対策を講じたということでしかありません。
さて、下の写真は何かわかりますか? 林道にそって、工事用の電線が張られたのですが、その電柱の上にT字状のものが取り付けてあります。これは、シマフクロウの生息地に取り付けられている「止まり木」です。なにやら、学識経験者の指導によって取り付けたそうですが、絶滅危惧種が生息している可能性のある地域で、このような大々的な工事をするということです。
この工事にお墨付きを与えた学識経験者は、ここで実際にどんな工事が行われ、どれほど自然が破壊されるのかを理解しているのでしょうか? 希少動物に影響がないなどと、胸を張って言えるのでしょうか? 現場で意見を聞きたいところです。
それから、崩壊の危険などないところにもしっかりとロープが張ってありました。私たちをナキウサギ生息地に入れないためにロープを張ったのではないかと勘繰りたくなります。ここの調査を請け負っているコンサルタントの職員には、もちろん出入りを認めているのでしょう。
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