がん検診・がん治療を問う「乳がん後悔しない治療」
渡辺容子さんの書いた「乳がん 後悔しない治療 よりよく生きるための選択」(径書房)を読みました。
渡辺さんは、慶応義塾大学医学部放射線科の近藤誠医師の書いた新聞記事がきっかけで、40歳のときに直径5ミリの乳がんを発見しました。いわゆる超早期発見をしたのですが、近藤医師の診察を受け、また近藤医師の本を読み、ご自身のがん治療の方針は自分で決めるという選択をされたのです。そして、すぐに手術をすることなく必要に応じて対処療法をしていく道を選びました。
この本は、渡辺さんがインターネット新聞JANJANに投稿した記事をもとに加筆されたものです。JANJANの記事は読んでいましたのでだいたいのところは頭に入っていましたが、こうやって読み返すことで彼女の主張や、彼女が支持する近藤医師の考えがより鮮明に理解できました。
世間では、今でもがんは早期発見・早期治療は重要だという考えが主流で、大半の人がそれを信じています。マスコミや自治体の広報紙など、あちこちでがん検診の呼び掛けを目にします。渡辺さんのJANJANの記事を読んでからは、そんな呼びかけを目にするたびに、暗澹たる気分になりました。もっとも、私も渡辺さんのことを知る前までは、早期発見や早期治療について疑問に思ったこともなかったのです。でも、渡辺さんの記事を読んで、自分がいかに流布されている情報に影響されていたかを思い知りました。
がん検診を呼び掛けている人たちの多くは、おそらく事実を知らないのでしょう。つまり、早期発見・早期治療をしたら寿命が延びることを裏付けるデータがないということを。そして、医療放射線被ばくや薬による副作用など、検査や薬の弊害を。検査や治療が寿命を縮めてしまうこともあるし、辛い抗がん剤治療を我慢して「病気と闘う」ことが、肉体的にも精神的にもマイナスに働くことにもなりかねません。渡辺さんは、本の中でそのことを具体的に説明しています。
長生きできるという明確な裏付けがないのに検診、早期発見・早期治療をよびかけ、必要のない手術や害のある治療をしているというのが日本の実態のようです。その背景には、製薬会社と医者の癒着があるとしかいいようがありません。これについては知人の医師も指摘していましたから、事実なのでしょう。
過剰な検査ということについては、私も常々感じています。私は医者にかかることはほとんどないのですが、親族が医者にかかったときに、検査の多さに驚きました。入院したとたんに、次から次へと検査です。「この病気にこの検査は本当に必要なのか?」と素人でも感じることがありました。
素人の私たちはどんな検査が本当に必要なのかとか、検査による副作用や弊害は分からないものですが、そうした無知が、過剰な検査を断れず医者の言いなりになることにつながっています。本来なら医者が検査の必要性やマイナス面についてわかりやすく説明すべきなのですが、病院や医者が検査や投薬で儲けようと考えているのなら、本当のことなど言わないでしょう。医者の言うままにせず、患者が学んで自分で判断する必要がありそうです。もっとも、入院をしてしまったら、本人は調べる手段もありませんが。
がん治療にまつわる実態を知ってしまったら、検診、早期発見・早期治療に大半の人が疑問を抱かないという日本の現実に、ほんとうに愕然とするばかりです。がんの早期発見・早期治療に意味があると考えている方は、ぜひこの本をお読みいただけたらと思います。がんのことだけではなく、日本の医療のことや、患者がどうすべきかを考えるためにもとても参考になります。
乳房にしこりができても、そのほぼ80%は良性とのことです。しかし、残念なことに渡辺さんのがんは転移をしない良性のタイプではありませんでした。今、全身の骨に転移し、肺や肝臓にも転移しているそうです。でも、彼女、すごく元気なんですね。余命1年ほどと宣告された後に車椅子で小笠原諸島に行き、海にも入る。精神的にはものすごく健全なのです。まさに後悔しない治療を自分で選択してきた証でしょう。
人間、いつどんな病になるかわかりません。どんな運命が待ち受けていようとも、彼女のように生きられるということが本当の幸せなのだと思います。
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