カメムシ防除の陰にあるもの
先週の週末に東京で開催された日本蜘蛛学会の大会に参加してきました。今回のシンポジウムは「農地生態系におけるクモの役割」というタイトルです。環境保全型稲作に取り組んでいる水田で、斑点米を生じさせるアカスジカスミカメというカメムシの天敵としてクモが有効かどうかを検討する研究などが紹介されました。
斑点米というのは、稲の穂をカメムシが吸汁することで玄米に吸汁痕が残った米のことです。斑点米を生じさせるカメムシは何種類かありますが、小型で細長い体をしたカメムシの仲間です。このカメムシの駆除にはネオニコチノイド系の農薬が使用されており、ミツバチの大量死などの原因となっていると言われています。農薬が生態系に悪影響を与えるのはもちろんのこと、米を食べる人間にとっても大問題です。
というわけで、クモがカメムシの天敵として役立つか?という研究が行われたのです。結果は、アシナガグモ類やコモリグモ類、アゴブトグモなどがアカスジカスミカメを捕食しているものの、天敵としての役割は小さいだろうというものでした。
結果はともかくとして、正直いって、私はこの報告を聞きながら一人で溜め息をついていました。なぜなら、斑点米など農業被害として問題にする必要がないのです。なのに、そのための研究にお金と時間がかけられているとは・・・。どういうことか説明しましょう。
米の流通業者は選別機にかけて斑点米を除去して出荷します。また、斑点米は玄米に生じるのですが、精米するとほとんど痕が残りません。食べてもまったく問題なければ、味も変らないのです。つまり、消費者にとっては斑点米などまったく問題がないのです。それなのに、なぜ斑点米を防ぐためにカメムシを殺す農薬を散布するのでしょうか。
それは、国産米の規格にあります。農水省の規格では、斑点米が1000粒に1粒までであれば一等米ですが、2粒になると二等米になってしまいます。そして一等米と二等米では価格が60キログラムで約1000円も違うといいます。この価格差のために農家は農薬を散布してカメムシ防除をするのです。消費者にとっては、何の問題もない斑点米を減らすためにです! これについては安田節子さんが詳しく報じていますので、是非以下のサイトをお読みください。
天敵としてのクモの研究をすること自体は意味がありますし、シンポジウムの場でこのようなことを言ってしまったら身も蓋もありませんから黙っていましたが、斑点米の対策でやるべきことというのは、上述したような斑点米の規格を廃止することです。
こんな規格で利益を得ているのはいったい誰なのでしょう。安田節子さんは米流通業者だと言います。つまり、農家が出荷するときは等級がつけられるのに、流通業者が精米して小売に出す段階で等級はなくなってしまうそうです。何のための等級付けなのでしょうね。しかし、私はそれだけではなく農薬会社が関わっているのではないかと思えてなりません。
安田節子さんたちは、こんな危険で無駄な農薬散布をやめさせるべく、斑点米の規格の見直しを求めて農水省に働きかけをしているのですが、国はなかなか動こうとしません。その背景には流通業者や農薬会社との癒着構造があるのではないでしょうか。
余談ですが、カメムシというのはクモが好んで食べる昆虫とはとても思えません。クモの網にかかりやすい昆虫とも思えないのです。むしろ、クモがカメムシを捕食しているということのほうがちょっと意外でした。
また、天敵による防除というのも限界があるはずです。同じ種類の作物を広い面積で栽培したなら、害虫が大発生するのは自然のことです。ほんとうに環境保全や安全性を考えるなら、栽培でさまざまな工夫をするほか、ある程度のところで妥協していくしかないと思います。多少の虫食いや見た目は気にしないといった、消費者の意識改革も必要でしょう。
それから、このシンポジウムの中で「生態系サービス」という言葉を使っている方がいました。今では「生態系サービス」という概念が世界的に認知されているそうです。これについては以下の記事にも書きましたが、人間の傲慢さを感じさせるところがあり、自分では決して使いたいとは思いません。「生態系の公益的機能」といったほうがずっとしっくりくるのですが・・・。
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