美蔓貯水池の欺瞞(14)何も答えられない開発局
8月4日、美蔓貯水池のことで北海道開発局帯広開発建設部の説明会が開催されました。日本森林生態系保護ネットワーク・十勝自然保護協会・ナキウサギふぁんくらぶが6月21日に農林水産大臣に提出した要望書に基づき要請し、ようやく実現したものです。
帯広開建は、6月21日の要望書に沿って説明したいといって、用意したパワーポイントで説明を始めました。しかし、その内容は前回(2009年11月30日)の説明会とほぼ同じです(前回の説明会については「美蔓貯水池の欺瞞(8)」参照)。結局、8カ月経っても同じ説明しかできないのです。結論は「ペンケニコロ川取水施設及び取水導水路の建設にあたって、今後とも工事区域周辺に生息する野生動植物への対策について各学識経験者からの意見をいただくと伴に、モニタリング調査を継続して工事を進めていきます」とのこと。こんなことなら誰でも言えます。
このどうでもいい説明を聞いたあとは、こちらからの質問です。ところが、それに対しては「今日は答えられない」、「詳しいことはわからない」という発言のオンパレードでした。
たとえば、芽室町に造られたかんがい用の美生ダムについて、完成時に課長が「目的はなくなった」と住民に説明したこと、そして実際には家畜の飲み水や農薬の希釈、機械の洗浄などかんがいとは関係のないことに使われていると指摘して、過去の教訓をどう生かしているのかと質問したのですが、「今は具体的には答えられない」とのこと。
事業の必要性について尋ねると、「平成19年7月24日に農家の100%の同意を得ている」との回答。でも、「受益者が必要としている」ということと「事業が必要である」ということは違うと追求すると、「地域農業の振興のため」という答えにもならない回答です。具体的な被害実態はあるのかと聞いても答えられません。また、森林環境リアライズの報告書問題についても、答えられません。
費用対効果についても追及しました。帯広開建は費用対効果を1.04と算出しています。つまり、投資した費用に対しほんの少しだけ効果が上回るということです。具体的に言うと、総事業費375億円に対し、392億円(作物の生産増、経費節減など)の効果があるということになっています。年間22億円の効果があるというのですが、そのような数字はいったいどのようにしてはじき出されたのでしょうか? とっても不思議です。
この事業では受益地の半分強が牧草地です。そして、そのすべてが肥培かんがいを行うという計算になっています。肥培かんがいというのは、家畜の糞尿から液肥をつくり牧草地に播くというものです。しかし、肥培かんがいをするためには個々の農家がかなりのお金をかけて設備投資をしなければなりません。しかも現在は家畜の糞尿の堆肥舎整備が進んでいます。受益者として同意した酪農家が、本当に肥培かんがいをするとはとても思えません。ところがそういうことを確認もせず効果として計算しているのです。
また、一部のナキウサギの生息地では振動や騒音などが少ないミニシールド工法を用い、ナキウサギに配慮したとの説明です。そこで、この工法による振動や騒音について具体的なデータはあるのか、それらはナキウサギには影響を与えないのかを尋ねたのですが、具体的なデータはないとのことでした。ナキウサギと人間では、感知する周波数などが違うのです。そこで、ミニシールド工法で発生する振動や騒音についての具体的データを調べたり、ナキウサギが感知する騒音や振動の具体的データについて学識経験者に確認するようにと求めたのですが、「そうします」と答えないんですね。「学識経験者の意見を聞いて進める」と説明したばかりなのに。
さらに、調査報告書によるとナキウサギの痕跡が年々減ってきており、調査による影響があるのではないかという指摘もしました。ナキウサギが定着しているとか、一時的な生息地であるという判断についても、根拠がわからないので、アセスメント会社や有識者に確認してほしいと求めました。
具体的なことを追及したら、何も答えられないのです。それにも関わらず工事だけは予定通りに進めるという傲慢さがありありと感じられました。
もう一つ、重要なことがわかりました。現地ではすでに導水管埋設個所などでの伐採が行われているのですが、導水管埋設工事をするにあたって何メートルくらいの幅が必要なのかを質問すると、「20メートルほど」という答えが返ってきました。林道の下に埋設する場合は、資材の運搬路、資材置き場、掘った土を一時的に置く場所なども必要になります。二車線の大規模林道が幅7メートルですから、20メートルといえばその約3倍です。なかなか大規模な工事です。重機で穴を掘り、ダンプが行き来する工事をナキウサギ生息地の横でするということです。
今回の質問事項については、文書で回答してもらうことになっています。
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