八ッ場ダムの真相に迫る「谷間の虚構」(その3)
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高杉晋吾著「谷間の虚構」の弟三章「闇の中の人々」では、満州事変、朝鮮戦争にまでさかのぼる、政・官・財のダム利権の構図に迫ります。
朝鮮と満州の国境に建設された巨大な鴨緑江ダムは、朝鮮窒素肥料(後の水俣病のチッソ)への電力供給のために造られたといいます。この工事を請け負ったのが間組と西松建設。植民地でタダ同然の強制労働によって鴨緑江ダムを建設し、朝鮮窒素肥料が大儲けをしたそうです。この鴨緑江ダムに目をつけたのが岸信介と東条英機。二人は「朝鮮水力電気」という国策会社をつくり、軍事産業のための発電ダム開発を進めました。この鴨緑江ダム建設に関わった坂西徳太郎氏が、後に建設省の役人となって、八ッ場ダムに派遣されたという歴史があります。
その後、八ッ場ダムをめぐっての福田赳夫と中曽根康弘の確執、そして反対運動つぶし、談合など、生々しい利権の構図が語られています。
もう一つ、指摘しなければならないのは揚水ダムについてです。上池と下池の二つの貯水池をつくり、下池から上池に水をポンプアップして発電するというシステムです。水を低いところから高いところに汲みあげるのに電力を使うのですから、ちょっと考えただけで、赤字発電になることがわかります。では、なぜこのような赤字発電所を造るのでしょうか?
それは原子力発電と一体のものだからです。原発で余ってしまう夜間電力を下池から上池へのポンプアップに使い、電力の需要が一時的に増加したピーク発電時などに使うというものです。原発がなければ必要がないダムですし、猛暑でクーラーの使用が急増したなど、稀に生じる電力不足に対応するだけの無駄なダムです。これが山の中に100基(50組)も造られているといいます。
猛暑で電力が不足するといっても、一人ひとりが暑さをちょっと我慢してクーラーの設定温度を下げれば解消することでしょう。こうしたことからも、はじめにダムありき、はじめに原発ありきの実態が見えてきます。
こうしてみると、戦後のダムの多くが利権構造のなかにすっぽりとはまり込んで、金儲けの温床となっていたことが明瞭に見えてきます。国民の血税を惜しみなく投入しているダム建設は、決して国民の方などには向いておらず、ひたすら政・官・財のためにあったといえるでしょう。もちろんこれは八ッ場ダムに限らず、この国の大半のダムに共通することです。
八ッ場ダムをめぐる闇の世界について詳しく知りたい方は、是非本書をお読みになることをお勧めします。
なお、本書を書かれた高杉晋吾さんは1933年のお生まれですが、真実を追い求め、権力におもねらずに取材・執筆活動をされてきた反骨のジャーナリストです。
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