八ッ場ダムの真相に迫る「谷間の虚構」(その2)
前回の記事
前回の記事の続きです。今回は、高杉晋吾著「谷間の虚構」に描かれている八ッ場ダムの地質問題について紹介します。八ッ場ダムの地すべり問題については私も以前、以下の記事に書きましたので、ここでは省きます。
地質問題について書かれた「第二章 揺れる地盤」でもっとも驚くべきことは、「ダムを造ってはならない脆弱な地質」であることを建設主体である国が認識していながら虚偽の説明を行っていたということです。少し長くなりますが、本書に引用されている1970年6月10日の衆議院地方行政委員会の議事録から問題部分を紹介します。この発言は、文化庁の内山正説明員のものです。
「・・・その結果、昨年の十二月に上流サイトの地質調査が行われたようでございまして、その結果が本年の三月の初めに文化庁に提出されました。その結果によりますと、その地点は地質が非常に熱水変質を受けておる部分が多い。地表でもそれが数カ所見られるし、またボーリングをいたしました地下の深いところでも二カ所ほど見られるということでございまして、このことは川原湯温泉に続くいわゆる熱変質をした地質がずっと続いているものと考えられるということで、ダムの基礎地盤としてはきわめて不安定であるということでございます。それからもう一点は、かりにダムを造りました場合の一番力のかかります下流端と申しますか、その付近に河床を横断する三メートル幅の岩の断層があるということで、これもダムの一番力のかかる部分にそういう断層があるということはダムが非常に不安定である、不安であるということであります。それから全体としまして岩盤に節理が非常に多いということで、これもダム建設、しかも大型ダムの建設場所としてはきわめて不安な状況であるということで、総じましてこの上流サイトに実地調査をいたしました結果については、この種のダムを建設する場所としては非常に不安な地形であるということがわかったということでございます」
この記述、すごいですね。国が自ら「ここはとても危険だからダムを造ってはいけない」と言っていると同然です。
ところが、2009年に東京の石原慎太郎知事や埼玉の上田清知事が現地を視察した際、担当技官はガンガンを叩いて「このとおり岩は硬い。だから八ッ場ダムは、これ以上ないほど安全な岩盤の上に建てられる」と説明したそうです。こうやって事実を隠ぺいし、国民を欺いてきたわけです。
ダムの堤体自体は水圧などに十分耐えられる構造になっているのでしょうけれど、それを支える地盤が脆弱であれば堤体の強度など意味がありません。もしダムが決壊したなら、とんでもない大災害が待ち受けています。その責任はだれがとるのでしょうか。いえいえ、責任などとれないでしょう。造らないことこそ国の責任です。
もう一つ、ダムが地震を誘発するという事実があるということも本書で知りました。地下の活断層の断層面に地下水が浸透すると、地震が発生することがわかっており、ダムによって地震が発生しやすい環境になる可能性があります。脆弱な地質に加えて地震となれば、ダム決壊の懸念が現実味を帯びてきます。
最後に、地下水の問題についても触れておきたいと思います。東京駅などでは地下水が上昇しており、駅が地下水によって浮かないように対策に苦慮していうということは知っていましたが、首都圏などでは地下水位の上昇による影響が深刻になっています。これはかつて地下水の汲み上げによって地盤沈下が生じ、地下水の利用を放棄したために生じている現象です。
ところで、地下水放棄をしたのと同じ年である1955年に、関東で猛烈なダム開発ラッシュが生じたそうです。そこには、地盤沈下を理由に、ゼネコンと政治家が手を組んでダムの推進へと政策を転換させたという背景があります。しかし、今では上昇した地下水位によって、首都圏の建物は危機にさらされています。
首都圏の地下水位の上昇問題については以下のサイトなどを参照してください。恐ろしいことになっています。
ダムの必要性の根拠の一つとなっている水需要も過大に見積もられており、予測に対する実績はおよそ半分程度といいます。水需要予測などというのも絵空事でしかありません。基本高水流量が過大になっているのと同じ構図です。
絵空事の水需要予測によって水道料金にダムの建設費を上乗せられ、高くて塩素臭のするまずい水を飲まされるのは、首都圏に住む人たちです。
(つづく)
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