美蔓貯水池の欺瞞(13)架空の水需要と受益者負担
6月21日に日本森林生態系保護ネットワークが、美蔓地区のかんがい事業の中止と、天然林伐採の中止を求め、農林水産省と林野庁に申入れに行ったのですが、広島フィールドミュージアムを主宰される金井塚さんが、その報告記事をご自身のブログで取り上げています。提出した要望書もアップされています。
日本森林生態系保護ネットワーク、農水省・林野庁へ要望書提出(その1)
金井塚務さんがこの記事で鋭く指摘しているのは、賦課金(受益者負担)の問題です。というのも、金井塚さんは広島の大規模林道問題で、受益者賦課金の公的助成が違法であるとして裁判をしているのですが、美蔓のかんがい事業ではこれと同じ構図になっているのです。
すなわち、農家が負担すべき受益者負担を市町村が肩代わりしてしまう、つまり農家はなんらお金を負担しないがために、水を使うつもりなどなくても事業主体の求めに応じて受益者として契約書に判を押してしまうという構図があります。これによって架空の水需要がつくりだされてしまうのです。そして、必要もない事業に巨額の税金が投じられ、自然が破壊されることになります。農家が実際に受益者負担をするという条件であれば、果たして何件の農家が受益者として契約したのでしょうか? それが知りたいところですね。こうした水増しは、基本高水流量を過大な数値にすることでダムや河川整備を正当化する国土交通省のやり方とよく似ています。
国に自治体が肩代わりする賦課金のことを質すと、自治体と農家のことだから国は関係ないと逃げてしまったそうです。十勝自然保護協会が北海道開発局帯広開発建設部と話し合いをした時には、はじめは農家にも受益者負担があると説明していました。ところが後にその発言を反故にして、何くわぬ顔をして受益者負担は市町村が支払うと言い始めました。そこで、それはおかしいのではないかと質すと、それは自治体の判断だから自分たちには関係ないと責任転嫁をしてしまったのです。
でも本当に関係ないのでしょうか? 開発建設部の職員が農家と契約をするときに、「受益者負担は市町村が支払うから農家は負担しなくていい」という説明をしなかったとでもいうのでしょうか? まさか、そんなことはないでしょう。ならば、地元市町村の受益者負担肩代わりを利用した開発に責任がないはずがありません。「関係ない」で済まされることではないのです。
利用しておきながら、市町村に責任転嫁するとはどういうことでしょう。架空の水需要に基づく事業であっても、国はその水需要について検証する必要もないし、関知しないといっているのと同然です。これは無責任にすぎます。この無責任さを追求するとともに、架空の水需要を生み出すためのこのカラクリこそ、何とかしなければなりません。
これと同じようなことは、他のかんがい事業などでも行われているのではないでしょうか。市民が知らないだけで。
広島のように、受益地になっている町の住民が受益者負担の違法性を主張して住民監査請求をするなどの方法があるのですが、おそらく多くの市民は架空の水需要を生み出すカラクリも、住民監査請求という方法も知らないのだと思います。私は受益地の市町村に住んでいないので、住民監査請求をすることができないのですが・・・。
(つづく)
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