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2010/06/06

森林シンポジウムの報告

 昨日は、このブログでもお知らせしていた日本森林生態系保護ネットワーク(Confe)によるシンポジウム「森林と生物多様性」でした。実は、先週は何かと多忙だったうえに風邪をひいてしまいました。そんなこんなで体調があまりすぐれない上、私の報告用の電子紙芝居(パワーポイント)も出かける直前まで修正しているという有様でした。今日は、このシンポジウムでの話の内容をごくかいつまんで紹介します。

 はじめの講演は、はるばる屋久島から来ていただいた手塚賢至さんによる「世界遺産屋久島における生物多様性保全への取り組み」。私はこれまであまり意識していなかったのですが、九州の最高峰は屋久島の宮之浦岳(1936m)です。屋久島は海抜0メートルから1900メートルという標高差をもつために、亜熱帯から亜高山帯までの垂植生の直分布が見られます。亜高山帯の植生が見られるといっても、もちろん北海道とは全く違っており、針葉樹はスギやヤクタネゴヨウです。屋久島は雨量が多く、生物多様性に富む島なのです。そして屋久島の中でも原生的な自然が保全されているのは西部地域とのこと。世界遺産に登録されているところは原生的な自然が残されている場所が中心で、東部地域などではスギの人工林へと植生が変えられてきており、屋久島本来の植生への復元を目指しているとのことでした。

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 二番目は、世界的な植物学者である河野昭一さん(写真)による「生物共生系の世界を探る」というタイトルでの講演。植物と昆虫の共進化について分かりやすい写真を使ってのお話でした。たとえば、花の一部で紫外線の反射率を変えて昆虫を誘引しているとか、昆虫に蜜というお駄賃をあげることで自分を守ってもらうとか、花粉を納豆のように粘らせて昆虫の体に付着させるようにしているとか、種子をアリに運んでもらうとか、とても興味深いお話でした。こうした共進化はダーウィンの自然選択説だけで説明するのは難しいのではないかとのことですが、確かにそう思います。花にそっくりの色や形をしたカマキリなど、ほんとうにどうやって進化したのかと思うと不思議でなりません。

 予定では「花に魅せられ50年」―河野昭一さすらいの半生記―という講演も入っていたのですが、こちらは時間の関係で省略。その代わり、資料集の中に波乱に富んだ植物学者の研究人生が収録されています。私は、こうした話はお酒を飲みながらの席で河野先生ご自身から何回か聞かせていただいていますが、こちらの話を聞きたかった参加者も多かったのでは・・・。

 活動報告として、私が大雪山国立公園での伐採問題について話したほか、広島の金井塚務さん(広島フィールドミュージアム主宰)から、沖縄のやんばるの森でのオキナワウラジロガシの調査報告がありました。Confeでは、何と日本の北の端と南の端で調査活動をしているのです。

 やんばるの森はイタジイを主体とする常緑広葉樹林です。イタジイなどの多くの広葉樹は伐採しても切り株から芽が出て再生します(これを萌芽更新といいます)。ところがオキナワウラジロガシは、ほとんど萌芽更新をしないのだそうです。そこでオキナワウラジロガシの分布を調べると、湿度の高い谷沿いに多く生育しており、種子(大きなどんぐり)は落果と川の流れによって散布されることがわかりました。このどんぐりは乾燥に弱いのですが、斜面の上から流れてくる土砂や落ち葉を板根(板状になった根)が受け止めることで湿度の高い土壌が形成され、そこでどんぐりが発芽できるようになっています。さらに、オキナワウラジロガシはヤンバルテナガコガネやケナガネズミなどの生息場所としても重要な存在です。ですから、沢筋の植生が破壊されてオキナワウラジロガシがなくなってしまうと生物多様性に大きな影響を与えることになります。やんばるでも北海道と同じように無残な皆伐が行われ、網の目のように林道が造られているので、そうした貴重な自然がどんどん壊されているのです。

 最後は市川守弘弁護士による、「日本の森を守るための提言(案)」の骨子について説明がありました。市川弁護士は全国各地の自然保護運動に取り組んでいますが、道南のブナ林や日高のえりも地方での伐採が止まっているなど、その成果が着実に現れています。行動していかないと、森は守れません。

 参加者はおよそ70名くらいだったでしょうか。嬉しいことがありました。私のブログにコメントを寄せてくださるBEMさんが、ブログに掲載したお知らせを見て参加してくださったのです。終わったあとで挨拶に来てくださいました。そして、さっそくご自身のブログでも報告してくださいました。ブログの内容からとてもまじめで誠実な方だと感じていましたが、実際にお会いしてよりその印象を強くしました。ありがとうございました。どこかで「鬼蜘蛛おばさん」を見かけた方は、声をかけてくださると嬉しいです。

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