美蔓貯水池の欺瞞(11)ナキウサギ生息地での工事が本格化か
4月13日の北海道新聞十勝版に、美蔓地区の国営かんがい排水事業に関して、「事業費大幅削減 完成延期へ」という記事が掲載されました。
その記事によると、本年度の事業費として70億円を要求していたが「緊急性を伴わないものは優先しない」との理由で、28億5千万円に削減されたとのことです。予算が大幅削減されたということ自体は評価できるとしても、問題は28億5千万円の予算の使い方です。
道新記事によると「貯水池や本年度から始まるペンケニコロ川付近の導水路の敷設工事の一部(800メートル分)は、すでに予算を確保しているため工事を継続できる。しかし、ペンケニコロ川上流に設置する取水施設の頭首工や貯水池管理等の建設、周辺整備などは事費がつかなかったため、着工の見通しが立たないという」とのこと。
この「800メートル分」の導水管工事というのは、ナキウサギの生息している岩塊地の下に導水管を通す工事です。ここでは風穴現象が確認されています。帯広開建は「地上部を掘削せず、地下にトンネルを通す工法を用いるのでナキウサギ生息地そのものは壊さない」としているのですが、ナキウサギに影響を与えないなどという保証は何もありません。このかんがい事業の費用対効果や必要性が問われている中で、なぜナキウサギ生息地での工事を優先させるのでしょうか?
しかもナキウサギの調査報告書において、環境調査を請け負った森林環境リアライズによるデータ操作(「業者のデータ操作に対する研究者と行政機関の責任」参照)が明らかになっており、「十勝自然保護協会」と「ナキウサギふぁんくらぶ」が質問を突き付けているのですが、帯広開発建設部は肝心なデータ操作問題をはぐらかして問題の本質に触れようとしません。都合の悪いことは「知らぬ、存ぜぬ」という態度です。
「緊急性を伴わないものは優先しない」としながら、もっとも懸念されるナキウサギの生息地での工事に歯止めがかけられず、さっさと予算がつけられてしまったことに憤りを感じずにはいらせません。もし事業が中止になった場合でも、貯水池本体は雨水や雪解け水などを利用した、いわゆる「ため池」としての利用も可能かもしれません。しかし、ペンケニコロ川の導水管工事はナキウサギ生息地をかく乱するだけでマイナスしかないのです。
この事業は、総事業費330億円で、受益農家は215戸。一戸あたりの事業費は1億5千万円です。しかも215戸すべての農家が水を使うというわけではなく、実質的な受益農家はもっと少ないでしょう。芽室町の美生ダムなどもあまり利用されていないそうですから。それに、施設の維持管理費もかかります。どうしてもかんがい用水が必要だというのなら、地下水や水道水を利用したほうがずっと安く済むのではないでしょうか。
費用対効果など何も考えず、「ダム建設=大型土木工事」を目的に計画されたとしか思えない事業です。無駄なダムやかんがい事業の見直しが行われていて、この先予算付けがどうなるのかも分からない事業に、今年も28億円もの税金が注ぎ込まれるのです。溜め息が出てきます。
(つづく)
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