何のための「ほっかいどう学検定」なのか
先日札幌の書店に行ったときに、「ほっかいどう学検定 公式問題集[自然環境編]」(北海道新聞社)という本が目にとまりました。その本のカバーの折り込み部分に、次のような問題と回答の一例が出ていました。
Q 「瞑想」するポーズで人気のナキウサギの説明で誤りはどれ?
1.日本では北海道にだけ生息
2.知床、増毛山地では確認されていない
3.低地では地下の永久凍土と風穴の冷気があるところにだけ生息
4.冬眠に備え、夏の後半から草木の葉や茎、コケなどを蓄える
この質問を読んで首をかしげてしまいました。ナキウサギは冬眠をしません。そこで秋になると植物を大量に集めて岩穴に貯蔵し、冬の間はそれを食べて過ごします。これを貯食といいます。冬眠をしないので、「冬眠に備え」としている4番が誤りだといいたいのでしょう。しかし、実は3番も誤りなのです。誤りが二つもあるような設問は失格です。
さて、答えを見ると以下のように書かれています。
A 誤りは4
ナキウサギは氷河時代の生き残り(遺存種またはレリックと呼ばれる)で、1万年前まで続いた氷河期には平地にも生息していたと考えられるが、温暖化に伴い寒冷な高山や風穴のあるガレ場(石が積み重なったところ)に逃げ込んだ。ガレ場は岩と岩との隙間が外敵から守ってくれるとともにクーラーの役割を果たす。地下に永久凍土がある士幌高原や日高の豊似糊では低標高地でも生息している。ねぐらに草木の葉や茎などリュック1杯分もの量を蓄え、冬眠はしない。
この答えでは、ナキウサギは冷涼なところにしか棲めず、日高の豊似糊には永久凍土があるということになります。しかし、豊似糊では永久凍土は確認されていません。日高では標高50メートルの幌満というところでナキウサギの生息が確認されており、現在知られている生息地の中でもっとも標高の低いところです。しかし、幌満にも永久凍土はありません。ナキウサギの生息には永久凍土や風穴の存在は必須ではないのです。
ナキウサギは岩が積み重なった岩塊地を棲みかとしています。そのような岩塊地では永久凍土や風穴が発達しやすいということであり、永久凍土や風穴がなければナキウサギは生息できないというわけではないのです。しかし、今でもそのことを理解していない人がたくさんいるようです。この設問を考えた人も恐らくそうなのでしょう。
この問題集には、他にも首をひねるような不適切な設問や解答が複数ありました。
最近は「検定」がブームになってきているようです。私はこうした検定などには全く関心がないのですが、検定に合格することを目的とした問題集を見て、何のための検定なのかという疑問が大きくなりました。誤った設問や解答があるということもありますが、問題の出し方がまるでクイズです。意図的に引っかけようとしているとしか思えない設問もありますし、こんなことを覚えて意味があるのだろうかと思う設問も少なくありません。この問題集を丸暗記すれば検定に合格するのでしょうけれど、それで北海道の自然や環境のことが理解できるとは到底思えません。いえいえ、それで理解できたと思ってしまったら、むしろ問題でしょう。
自然観察会のリーダーなどにも言えることですが、知識を詰め込めば自然についての説明ができるというものではありません。聞きかじった知識で自然解説をしても、ひとたび質問をされたら答えに詰まってしまうでしょう。優れた自然観察者は、自分自身で疑問をもち、それを探求する姿勢が必ずあります。そうしてこそ、自然の不可思議さをひも解き理解することができるのです。
本書の「発刊にあたって」には、「『ほっかいどう学』は、北海道を理解し、北海道を愛し、北海道の創造的発展を目指す人々を増やしていくのを目的に設けられたものです」と書かれています。しかし、この問題集の設問に答えられたからといって、「北海道を理解し、北海道を愛し、北海道の創造的発展に役立つ」とはとても思えないのです。
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