士幌町「富秋地区」の国営かんがい排水事業の中身
十勝自然保護協会が説明を求めていた、士幌町および音更町(十勝地方)の「富秋地区」に計画されている「国営かんがい排水事業」について、昨日、北海道開発局帯広開発建設部から説明がありました。国営かんがい排水事業といえば、昨年の事業仕分けでやり玉に挙げられ予算が削減されましたが、これから実施予定の事業もあります。
帯広開発建設部の説明によると、富秋地区では比較的排水条件が良いところであるが、近年の降雨量の増加、ゲリラ豪雨などによりたびたび湛水被害や加湿被害が発生するために、3本の排水路を整備したいとのこと。しかし、予定地にはニホンザリガニなどの希少種が生息しているために、工法などを検討し、地域住民などの意見を聞きながら進めたいとのことでした。つまり、比較的排水の良いところだったので、これまでは排水事業は行われていなかったが、近年の雨量の増加で被害が増えた。そこで、段丘崖の縁を流れる既存の小川(開建は排水路と称していた)を掘り込んで大々的に改修し、排水路にしたいというわけです。
「ゲリラ豪雨」、便利な言葉ですね。十勝川の河川整備計画の公聴会でも、しばしばこの言葉を聞きました。地球温暖化で「ゲリラ豪雨」が増え、危険だから治水工事をしっかりせよ、というわけです。
さて、その費用を聞いて驚きました。3条11.2キロメートルの排水路の概算総事業費は46億円です。負担区分は、国が80パーセントの36億8千万円、北海道が15パーセントの6億9千万円、地元が2億3千万円です。受益農家戸数は54戸。単純計算では農家一戸あたり約8500万円を投じることになります。もっとも54戸のすべての畑に被害が発生するわけではありません。
また、施設の耐用年数はおよそ40年を見込んでいるとのこと。1年当たりにすると1億1500万円になります。湛水や加湿による被害が毎年発生するわけではありませんから、これだけの事業費を投じるのであれば、被害額を補償したほうがよほど安くすむでしょう。
費用対効果を計算していないということでしたが、こんな数字では、費用対効果の数値が「効果がある」という1.0以上になることはないでしょう。国は、こういうことを国民にほとんど知らせることなく、「かんがい排水事業」に多額の税金を投じてきたのです。
配布資料には具体的な降雨量や被害状況が書かれていないので質問すると、以下のような説明がありました。
2009年の4月から10月までの降雨量は745ミリであり、7月は257ミリだった(過去5年間で最多)。ただし、2009年は既存の水路から溢れてはいない。平成11年から平成21年の10年間で5回、水路が溢れて被害が発生した。溢れる場所はだいたい同じところである。
つまり湛水被害、加湿被害といっても、川が溢れて水に浸かる場合と、畑の水が速やかに排水されずに湛水や加湿状態になる場合の二つがあるのです。それらの対策は分けて考える必要があります。川が溢れる場所は、溢れないように堤を整備してポンプで排水するという方法も考えられます。また畑の水はけをよくするなら、畑の中や道路などにそって排水溝をつくるという方法も考えられます。そもそもここは音更川の氾濫原です。畑作にはあまり適していないところに畑をつくっているということも認識する必要があります。
富秋地区は河岸段丘に接しており、湧水など小川となっているのですが、その川を掘り下げて大々的に改修する工事をしたなら、段丘崖に残された貴重な自然が壊されてしまいます。私たちは、費用対効果や自然保護などの側面から、別の対応策を考えるべきだと提案しました。
この「富秋地区」の排水事業は、今はまだ調査期間とのことで、実施期間は平成23年度から27年度になっています。来年度の調査費用の予算はついたとのことですが、その後の予算がどうなるかはわかりません。費用対効果や代替案などをきちと検討すべきでしょう。
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