手放しで賛同できない砂防ダムのスリット化
1か月ほど前の12月18日付の北海道新聞に「スリット式ダム道内で着々」という記事が掲載されていました。日本の川にはいたるところに砂防ダムが造られてきましたが、最近、砂防ダムに切れ込み(スリット)を入れる工事が広まってきているようです。
具体的には、ダムの堤体に幅1~数メートルのV字型や四角い切れ込みを入れたり、一部を鋼鉄管を組み合わせた棚状にすることで透過性を高める工法(同記事の説明)です。落差がなくなるために、魚の往来も可能になり、魚道より優れているうえに防災機能も維持できるのが利点とのこと。
帯広土木現業所が、「魚道の確保」を理由に然別川三の沢の砂防ダムのスリット化について十勝自然保護協会に意見を求めてきましたが、どうやらこうした改修工事は全道的に進められているようで、新たな公共事業といえそうです。
スリット化は、魚が往来できるようにするという点では評価できるのですが、巨礫や流木の捕捉を目的に鋼鉄の工作物を設置したところ、そこに大量の流木がひっかかって魚の往来を妨げてしまった事例もあるようです。そうなってしまったのでは、魚類の往来という点ではほとんど意味がありません。また三の沢砂防ダムの現場を見る限りでは、洪水で巨礫や流木が大量に流下したような形跡がありません。ならばいっそのこと、スリットなどといわず中央を大きくカットするか、あるいはダムそのものを撤去してしまえばいいのではないでしょうか。
実際に堤体の中央を大きくカットするという大胆な改修工事を実施したのが、知床の砂防ダムです。知床では、ダムそのものが必要ないのではないかと思えるくらい大きくカットしています。そこで、十勝自然保護協会では然別川三の沢砂防ダムも、知床と同じように大きくカットすることを提案しました。ところが帯広土木現業所は、それでは洪水で巨礫などが流下して人的被害を与える可能性があると主張し、2本のスリットを入れ、スリット部分に鋼鉄の横棒を入れるといって譲りません。しかし、人的被害を与えるような洪水が生じる確率はいったいどれくらいなのでしょうか。その点が非常に不透明なのです。
河川管理者は「砂防ダムは必要」だとして造ったのですから、その機能を否定してしまうような大胆なカットや撤去などは建前上できないということなのでしょう。しかし、砂防ダムによって魚の遡上が妨げられていることは大きな問題です。そこで、スリット化という公共事業を広めたいのではないでしょうか。三の沢砂防ダムの改修工事も、当初の予定では2億円ほどの事業費を予定していました。これをあちこちで進めていけば、かなりの事業費になるでしょう。確かにスリット化は魚の往来には大きな意味があるのですが、手放しでは賛同できない側面があります。
なお、日本でもようやく砂防ダムの撤去が行われるようになりました。スリット化に巨額の費用をかけるのであれば、いっそのこと撤去すべきでないかと思えてなりません。
以下の記事は砂防ダムの問題を考える上で参考になります。
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