増田美智子さんへのインタビュー(その1)
このブログでも何回か取り上げてきた「福田君を殺して何になる」(インシデンツ)の著者である増田美智子さんとコンタクトをとることができました。この本は、光市事件の被告人である福田君やその関係者を取材したルポルタージュですが、福田君の弁護団が出版差し止めの仮処分を求めたことをきっかけに、裁判に発展して波紋を呼んでいます。
マスコミ報道というのは往々にして偏っていたり、物事の本質が正しく伝わっていなかったり、重要な事実が報じられないことがあります。この問題に関しても、私は、マスコミ報道では実名報道の可否ばかりが話題になり、著者側の主張がきちんと伝わっていないという印象を強く抱いていました。そこで、増田美智子さんにメールでインタビューを申し入れたところ、快く応じてくださいました。
増田さんの回答には、マスコミでは報じられていない重要な指摘がいろいろあります。そんな声にぜひ耳を傾けていただけたらと思います。3回に分けて掲載します。
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― 出版の直前になって、出版差止めの仮処分を申し立てられ、その結論が出ていないうちに福田君側から本訴がありました。広島地裁で仮処分が却下されると高裁に即時抗告しました。その後、増田さんやインシデンツの寺澤さんが反訴したり、毎日新聞を訴えたわけですが、一連の経緯や心境などについて聞かせてください。
これまでの報道で、福田君は「狡猾」「鬼畜」「知能犯」などとさんざん批判されていました。福田君のことが正確に報道されているとは言い難い状態のなかで、世間の人々は、福田君のことを、より凶悪で、より残酷なモンスターのようにイメージしていたように思います。
しかし、実際に面会し、手紙を交わしてみれば、彼は自らの犯した罪と向き合い、反省しようと一生懸命に努力する青年であり、報道との大きなギャップがありました。
福田君も、私たちと同じように悩み、迷い、笑い、泣きながら日々成長していく一人の人間であることを知ってもらいたい。そのうえで、読者の方々には、彼に下された死刑判決の当否を改めて考えてみてほしい。私は、そういう思いで本書を出版しました。犯行当時18歳だった福田君の実名を書いたのも、福田君をありのまま描きたかったからです。おそらく、私の思いは福田君の弁護団ともそれほどかけ離れていないと思っています。
弁護団が「福田君の実名表記は少年法違反だ」として、出版差し止めの仮処分や本訴を提起したことにより、「大罪を犯したにもかかわらず、実名で報道されるのを嫌がる不遜な人間だ。やはり反省していない」という印象を世間に与えることになってしまいました。これでは、私が本書で訴えようとしたことが無になってしまいます。仮処分や本訴となれば、福田君への誤解を増大させることはわかりきっていましたから、弁護団との間ではできる限り法的措置を避けられるよう努力しましたが、力及ばず、このような事態になってしまったことは、非常に残念に思っています。
この過程で、弁護団は私のことを、「福田君を脅迫して取材に応じさせた」「一人の女性として福田君に近づいた」などと、ありもしない事実を報道陣に語り、それがたびたび報道されました。しかも、そうした誹謗中傷はどんどんエスカレートしており、放置しておけばこの後さらにエスカレートすることが予想されたため、反訴に踏み切りました。
本書はおもに新聞紙上で厳しい批判を浴びてきました。そうした批判を目にして、反論したいと思うこともたびたびありましたが、論評は自由であるべきですから、問題視することはありませんでした。
しかし、2009年11月11日付け毎日新聞社説のように「当事者に知らせることなく出版しようとした行為は、いかにも不意打ち的だ」などと、誤った前提事実をもとにしてまで批判されてはたまりません。私は、福田君に出版を何度も知らせていましたし、それは広島地裁決定も認めている事実です。毎日新聞は地裁決定のコピーを持っており、地裁決定をきちんと精査すれば避けられた過ちです。しかも、毎日新聞はこの社説を書くうえで、私や寺澤さんに取材することもありませんでした。こんなに適当に書かれた批判に対して抗議しなければ、「著者は何を書いてもOKな人」という認識を新聞社に与えかねません。
弁護団に対する反訴や、毎日新聞社への提訴は、エスカレートする誹謗中傷に対して、きちんと事実確認しないのなら、こちらも怒りますという姿勢を、弁護団やマスコミ関係者に示しておくことも大きな目的のひとつでした。
― 出版差止めの仮処分や本訴では「福田君に実名で書くことの了解を得ていたか否か」「事前に原稿をチェックさせるという約束があったか否か」が最大の争点だと私は理解しているのですが、増田さんはどう捉えていますか? 増田さんは、「実名で書くことについては了解を得ていた」「事前の原稿のチェックの約束はなかったと」と主張されているということですね。
ご指摘のとおり、「福田君に実名で書くことの了解を得ていたか否か」「事前に原稿をチェックさせるという約束があったか否か」、が重要な争点であると思います。
実名で書くことについては、2009年3月27日の面会で福田君の了承を得ました。彼は、「それって、僕の了解が必要なの? 『週刊新潮』とかは了解なしに書いてるよね」と言いつつ「僕は書いてもらってかまいません」とあっさり了承しました。福田君が言うように、彼の実名は事件直後から何度も『週刊新潮』が報道してきましたから、彼の名前は今さら秘密でもなんでもありません。だから、断られることもないと思っていました。その後の面会も、福田君の実名を書くことを前提に、事実関係の細部にわたる確認をしていましたが、福田君から実名記載をやめてほしいと言われたことは1度もありません。
事前に原稿を見せる約束をしていたという主張は、福田君からそういうお願いをされたことは一度もなく、弁護団か福田君によるゼロからのねつ造です。仮処分の書面のやりとりのなかで、いつ事前に原稿を見せる約束をしたというのか、何度も弁護団を質しましたが、弁護団は約束したとする時期さえ明らかにすることはできませんでした。それほどまでにあいまいな主張なんです。
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