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2009/12/05

オニダニとオニグモ

 先日発行された日本蜘蛛学会の会誌Acta arachnologica(58巻2号)に、青木淳一先生がカワノイレコダニ Hoplophthiracarus kawanoiという新種のダニを記載されました。昨年、河野昭一先生が代表を務める日本森林生態系保護ネットワークのメンバーが、沖縄のヤンバルで調査をした際に青木先生が同行され、そのときに採集したダニなのです。つまり、和名のカワノ、学名のkawanoiは、京都大学名誉教授の河野昭一先生のことで、イレコダニというグループのダニです。まるっこくて可愛らしい風貌のダニなのですが、なるほど・・・河野先生にお似合いです。

 このように、クモや昆虫などの種名に人の名前をつけることを献名といい、採集者や第一発見者などの名前をつけることが多いのですが、お世話になった人や研究者の名前をつけることもあります。生物の種名に自分の名前をつけていただくというのは名誉で喜ばしいことなのですが、実は青木先生には献名をしたのに喜んでもらえなかったという経験があるのです。

 青木先生は大学の卒業論文でダニの研究をし、その際に新種も発表しました。その初めての新種記載がオニダニ科のダニでした。そこで指導教官の名前を頭につけてヤマサキオニダニHeminothrus yamasakiiという種名をつけたのです。ところが、山崎先生は「山崎鬼ダニとは何ごとだ!」と気分を害されてしまったそうです。好意で献名したのに「山崎鬼」と解釈されるとは思ってもいなかったのでしょう。幸い、今回沖縄で発見したダニはイレコダニの仲間だったので、河野鬼ダニにはならずに済んだようです。

 実は、この逸話はクモにも繋がっています。クモにもオニグモとつくクモが沢山います。ヤマオニグモ(山鬼蜘蛛)とかアカオニグモ(赤鬼蜘蛛)、ニワオニグモ(庭鬼蜘蛛)などなど。ですから、オニグモの前に人の名前をつけたならヤマサキオニダニと同じようなことになります。オニグモの仲間(オニグモ科というグループはなく、コガネグモ科のクモなのですが)の研究では第一人者の谷川明男さんも、オニグモの和名をつける際にはとても気を遣われ、献名をするときには本人に「○○オニグモという和名をつけてもいいでしょうか?」と確認をとっています。

 私にも「マユミオニグモという名前をつけてもいいですか?」と確認がありました。もちろん喜んで承諾したので「まゆみ鬼蜘蛛」が誕生しました。私の風貌は鬼とは似ても似つかないし、鬼のように怖くもない(と自分では思っている・・・)のですが、もしかしたら「ピッタリの名前!」と思っている方もいるかもしれませんね。マユミオニグモは派手ではありませんが、シックな色合いのクモです。日本蜘蛛学会の観察会で、参加者のひとりが見つけたときにはなかなか好評で、次ぎから次ぎへと手渡されて愛でられていました。

 ところで、青木淳一先生は日本のササラダニ研究の第一人者です。ササラダニというのは動物の血を吸うダニとは違い、落葉を食べてひっそりと暮らす土壌性の小さなダニです。青木先生は、日本のササラダニの研究を切り拓いてこられました。ダニは広い意味でクモの仲間なので日本蜘蛛学会の会誌に投稿されたのですが、今年の日本蜘蛛学会の大会でもお見かけしました。青木先生は、プロの画家も顔負けの精巧ですばらしいダニの図を描かれることでも知られています。

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