絶滅危惧種の黒塗りと専門家の責任
ナキウサギふぁんくらぶは、北海道開発局に美蔓地区国営かんがい排水事業(旧美蔓ダム)の環境調査報告書を開示請求したのですが、その報告書では絶滅危惧種の記載してある部分がことごとく黒塗りにされていました。また、調査に対してアドバイスなどをしている専門家の名前も黒塗りです。
先日、北海道電力が富村ダムの堆砂処理に関する説明会を開催した際も、工事箇所に生息している絶滅危惧種の猛禽類について説明がありましたが、種名が記載された資料は後で回収され、絶滅危惧種を黒塗りにした資料が渡されました。要するに種名は公にするなということなのです。
環境省や都道府県は絶滅の恐れのある野生生物の保護を目的にレッドデータブックを作成しています。だからこそ、アセスメント調査、環境調査においてはとりわけ絶滅危惧種に影響がないかどうかが問われ、調査が行われるのです。しかし、「アセス調査者の告白」にも書いたように、絶滅危惧種が確認されたことで事業が中止になることはほとんどなく、事業の陰で絶滅危惧種や希少種が消えてしまっているのが現実です。これでは、絶滅危惧種を選定している意味がありません。
自然保護団体が調査内容を知るために開示請求しても、肝心の絶滅危惧種や希少種が黒塗りであれば、保護すべき動植物の実態を知ることも困難です。ならば、それらの保護について誰が責任を持つというのでしょうか? 確かに、希少植物の存在を無闇に公開したなら盗掘の心配もありますし、魚類は釣り人、猛禽類などではカメラマンが押しかけるなどの悪影響も懸念されます。しかし、それを理由になんでも黒塗りにしてしまう行為は、大型公共事業による動植物への影響を隠蔽し保護の道を閉ざすことにも繋がるのです。税金をつかって行われている調査において、その情報を事業者と調査を受けたコンサルタント会社、そして一部の専門家しか知り得ないなどということがまかり通っていいとは思えません。
不思議なのは、平取ダムの環境調査検討委員会で配布された調査資料は室蘭開発建設部のホームページに掲載されていて、そこでは絶滅危惧種は黒塗りにされていません(例えば第8回平取ダム環境調査検討委員会資料参照)。美蔓地区のかんがい排水事業は平取ダムと同じ北海道開発局の事業なのに、市民が情報公開で開示請求した資料はなぜ黒塗りにされるのでしょうか?
また、アドバイスをしている専門家の名前がなぜ黒塗りにされなければならないのでしょうか? 専門家として責任をもってアドバイスをしているのですから、名前を公開するのは当然です。自分の発言に責任を持てない専門家には依頼するべきではないでしょう。
ところで、美蔓ダムでも北電の富村ダムの堆砂処理でも関わった専門家の名前を聞いたのですが、どちらにも共通している方が3名もいました。藤巻裕蔵さん、竹中健さん、柳川久さんです。北電は計画を進めるにあたり専門家の方たちから了解を得たといっていましたので、この専門家の方たちは「環境調査の実施」と「影響を軽減する対策」を条件に事業にお墨付きを与えたといえます。
また北電にアドバイスをした専門家には斉藤慶輔さんもいます。斉藤さんと藤巻さんは「平取ダム環境調査検討委員会」の委員もされています。この検討委員会の位置づけは「・・・平取ダムの円滑な事業の実施にむけて、調査計画段階から学識経験者に意見をいがだきならが、新たに示された知見に基づいた環境調査を実施することとし・・・」(第1回 平取ダム環境調査検討委員会資料より)とのことですので、建設前提に設置された委員会といえます。委員の名前は公表されているものの、委員会で誰がどんな発言をしたのかは非公開なのでわかりません。この委員の方たちは、あれだけ問題視されて凍結された平取ダムの建設に、お墨付きを与えたことになるのではないでしょうか。専門家としての責任が問われます。
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