アセス調査者の告白
10月5日付けの朝日新聞に、ダムに関わる環境アセスメントを複数手がけた経験のある市川恭治氏の「ダムの自然破壊『戦略的環境アセス』全国に」という記事が掲載されていました。
市川氏は、かつて自分が環境アセスに関わったダムによる自然破壊は想像以上のすさまじさだといいます。そこに棲む動植物が壊滅的な影響を受けるだけではなく、移動能力のある大型の動物でさえ影響を受けます。たとえばあるダムではイヌワシが姿を消して、トビやカラスばかりが目につくようになったそうです。また、工事跡地には帰化植物が繁茂するなどの問題も生じると指摘しています。一度帰化植物が繁茂してしまえば、駆除は容易なことではありません。
もうひとつ重要な指摘は、下流での流量や水質の変化による生態系への影響です。水量の減少や安定化は、魚類などの水生生物に影響を与えるだけではありません。例えばカワラノギクは、年数回増水するような不安定さが生育条件となっており、そのような生物はレッドデータブック登載種が多いといいます。ダムによる流量の減少や安定化によって、絶滅の危機にさらされる生物も多いのです。
私たちは完成して水を湛えたダム湖を目にしても、かつてその場所にあった自然やそこに棲んでいた動植物にまで思いを巡らすことは困難です。しかし、実際に調査を行った方によるこのような情報発信は貴重です。森林で覆われた斜面や渓流が、大面積にわたって水没することの生態系への影響は計り知れないことを肝に銘じなければなりません。大半の人が知ることのないまま、ダムによって多くの絶滅危惧種や希少動物が姿を消していったのです。破壊前と同じ自然を、私たちは二度と取り戻すことはできません。
環境影響評価法が成立する以前に計画されたダムではまともに環境調査も行われていないのですが、環境アセスメントが実施されているダムでも、その調査が真に生物多様性の保全に生かされることはほとんどないといっていいでしょう。今のアセス調査は事業そのものの是非を検討するために行われているのではなく、造ることを前提にしたうえで「いかに影響を少なくするか」を検討する程度なのです。そして、完成してしまえば、ダムが生態系にどのような影響を与えたのかという検証も行われず、今後の事業に生かすこともありません。
環境省や都道府県がいくらレッドリストを作成したところで、このような開発前提のアセス調査がまかり通っている限り、絶滅危惧種や希少種は減少の一途をたどるだけです。これでは、何のために多額の税金をかけて調査しているのかわかりません。
造ることが前提なのですから、環境アセスメントを引き受けたコンサルタント会社は発注者に都合のよい結論を導き出すことにもなりかねません。美蔓貯水池の導水管埋設に関わるナキウサギ調査で矛盾が露呈したことからも、コンサルタント会社による開発前提の調査の信憑性が問われるのです。なお、この問題については、「業者のデータ操作に対する研究者と行政機関の責任」を参照してください。
大きく破壊されてしまった自然や失われた生物は、決して元には戻せません。ダムの中止や凍結で推進派の人々が巻き返しを図ろうと画策しているようですが、自然破壊の責任など誰もとれないことを自覚すべきでしょう。
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