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2009/11/03

美蔓貯水池の欺瞞(4)

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かんがいの必要性と受益者負担

 美蔓地区では水需要がどんどん減っており、現在では受益面積が当初計画の半分以下になってしまったことは前回の記事でも触れました。受益地である鹿追・清水・音更・芽室の4町のうち、もっとも受益地が広いのは鹿追町です。その鹿追町では井戸を掘って水を供給しているために水不足は解消されているとの話を聞いています。

 北海道新聞は10月に入ってからようやくこの美蔓地区のかんがい排水事業について報道するようになったのですが、10月2日の北海道新聞十勝版に「ナキウサギの里 道水路とどう共存」という大きな記事が掲載されました。その記事に、美蔓地区に住む農家の方の意見が掲載されていました。その部分を以下に引用します。

「なんで、この地区が受益対象になったんだろうね。今もよく分からないよ」

「どれくらい前か、すごい昔のある日、開発局の人がパンフレットを持って来て、この地域も対象になるから参加しないかって誘われたの。近所の農家も入るなら、仲間はずれになるのは嫌だったし」

「最初は上水道の工事だと聞いていた。どうも違ったようで・・・。水の値段が格段に安くなるわけでもない。必要な水はある」

 帯広開発建設部は、十勝自然保護協会との話し合いの中で「農家が水を欲しがっている。農家から要望があるから行う」と説明していました。しかし、実際には農家が積極的に要望したというより、開発局が受益者を増やすべく誘っていたのではないでしょうか。また、帯広開建は「農家には受益者負担がある」と明言していました。ところが、途中から「受益者負担は地元の市町村が負担する」と説明が変わったのです。農家負担がないのなら、それほど水が必要ではなくても同意する農家があることは想像に難くありません。

 また、受益地のほぼ半分は畑ではなく牧草地です。牧草の原産地は乾燥したところですから、牧草に潅水をする必要はありません。これについて帯広開建に質問すると、「肥培かんがい」に用いるのだといいます。つまり、牛のふん尿に水を加えて散布するというのです。肥培かんがいを行うためには施設が必要ですが、そのような施設整備は農家負担になります。いったいどれだけの農家が高額な投資までして肥培かんがいをするのでしょうか?

 2004年に、かんがい目的で芽室町に美生ダムが建設されたのですが、その検証記事が10月28日付けの北海道新聞に掲載されていました。その記事に「水はデントコーンの除草に使い、牛にも飲ませている。水道代も安く、ダムができて便利になった」という酪農家の女性の声が掲載されていました。帯広開建は「かんがい」目的なのでそれ以外の用途には使えないと話していましたが、酪農家は本来の用途外である除草剤のうすめ液や牛の飲み水に使っているのが実態のようです。

 美生ダムの総事業費のうち芽室町の負担金は28億円にも達し、今後の設備更新に約1億円を見込んでいるとのこと。地元自治体の負担額も財政を圧迫します。美蔓地区のかんがい事業では、貯水池の費用負担割合は国が85パーセント、北海道が12パーセント、自治体が3パーセント。配水管は国が80パーセント、北海道が15パーセント、自治体が5パーセントです。莫大な税金が使われる以上、費用対効果が問われますがそれは不明です。本来なら受益者自らが負担しなければならない受益者負担を地元の町が肩代わりするのですが、こうした負担は住民から十分な理解が得られているのでしょうか。

 近年では干ばつによる農作物への被害も聞きません。たとえ少雨の年に干ばつ被害が生じたとしても、それは美蔓地区に限ったことではありません。収量の増加が目的なら、農家が受益者負担分を支払うのが当然ではないでしょうか。散水のためのスプリンクラーも農家が負担しなければならないのですが、本当に設備投資までしてかんがいを行うのかも疑問なのです。(つづく

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