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2009/10/01

気候変動と地球温暖化

 田近英一著「凍った地球 スノーボールアースと生命進化の物語」(新潮選書)という本を読んだのですが、非常に衝撃的な内容でした。地球は何度も寒冷な気候と温暖な気候を繰り返していることはもちろん知っていましたし、過去に地球全体が凍り付いていたことがあるということもNHKの番組で知っていましたが、そのダイナミックな気候変動のメカニズムの謎解きからはじまって生物進化にまで言及している本書は、環境問題や生物学に興味を持つものにとって非常に興味深く刺激になる内容です。

 とはいうものの、私がここで話題にしたいのは地球温暖化懐疑論についてです。従って、この本の内容については、以下のサイトを参考にしていただけたらと思います。

今週の本棚:中村桂子・評『凍った地球-スノーボールアースと・・・』=田近英一・著 

 さて、日本では二酸化炭素による温暖化説に対して、複数の懐疑論者が異を唱えています。懐疑論については「温暖化への異論は信用できるのか?」 「温暖化懐疑論と反論」 「学術学会とIPCC」などでも取り上げていますが、私自身はこれまで懐疑論はにわかに信じられないものの、どちらが正しいかについての確信は持てず、学者がそれぞれの意見を主張するのは大いに結構なことだと思っていました。そして、人為的な二酸化炭素放出によって地球が温暖化しており、人類にとって大きな脅威となりえる可能性が高い以上、真剣に削減のための行動をとるべきだという考えでした。専門的なことは理解できないとしても、たとえば「日本の科学者」42巻12号に掲載された「地球温暖化問題への自然科学的アプローチ」という論文を読むなら、IPCCの第四次報告書の根拠は納得できます。そして、田近氏の本で、懐疑論への疑問が非常に強まりました。

 本書では、過去約80万年間にわたる気候変動も、過去約5億4200万年間の気候変動も、大気中の二酸化炭素濃度の変動と見事に同期していることを指摘し、二酸化炭素濃度の変動が、少なくとも気候変動を増幅させてきたことは疑いようもないとしています。懐疑論についての記述を以下に引用します。

 「もっとも、こうした過去の二酸化炭素の変動は、気候変動の『原因』ではなく『結果』である、という主張もある。これは、両者の変動のタイミングに、時間的なズレが存在する可能性を指摘したものだ。二酸化炭素濃度の増加による現代の地球温暖化は間違いだとする一部の主張は、過去の気候変動についても、二酸化炭素濃度の変動が原因ではない、と解釈する。アメリカでは、このような主張が政治や産業界と結びつき、ゴア元副大統領の訴える「不都合な真実」を受け入れてこなかったことはよく知られている」

 過去のデータからも、二酸化炭素の増加によって地球の温暖化がもたらされたのは疑いようがないでしょう。懐疑論者の主張の整合性が問われることになります。

 気候変動のメカニズムについては割愛しますが、この本の94ページでは、地球には二酸化炭素の分圧に応じて無凍結状態・部分凍結状態・全球凍結状態という3つの安定した状態があり、ひとたび安定解を超えると、別の安定した状態に急激に移行する(気候ジャンプと称している)ことが示されています。たとえば、部分凍結状態で氷床が緯度30度付近まで拡大すると、全球凍結に向かって一気にジャンプし、数百年程度で赤道まで氷に覆われるだろうと推測しています。さらに、全球凍結状態で二酸化炭素分圧が0.12気圧になると、一気に無凍結状態に移行すると推測しています。無凍結状態から全球凍結までとりえる地球の気候変動が、いかにダイナミックなものであるかを物語っています。そして、現在は部分凍結状態にあるわけです。

 現在人類が直面している地球温暖化は、過去の大規模な変動とは時間的スケールが全く異なりますし、現時点ではその変動規模はとりわけ大きいとはいえないかもしれません。しかし、過去の大変動について知ることは、化石燃料の大量消費による温暖化によって今後地球がどうなるのかを予測するためには不可欠なことです。著者はエピローグで次のように書いています。

 「現代の地球温暖化は、人類が化石燃料の消費や森林伐採などによって、大気中に大量の二酸化炭素を猛烈な勢いで放出することによって生じている。問題はその速度にある。人類活動による二酸化炭素の放出速度は、火山活動による二酸化炭素の放出速度の約三〇〇倍にも達する。地球システムは、そのような大きな速度での二酸化炭素の放出にすぐには対応できず、大気中の二酸化炭素は急激に増加する結果となる。このまま二酸化炭素の放出が続くといったいどうなってしまうのだろうか」

 気温の上昇にともなって土壌中に大量に蓄積されている有機物が微生物によって酸化分解されたなら、大量の二酸化炭素が放出されます。永久凍土が溶けてメタンハイドレートが分解したり、海水温が上昇することによって海底のメタンハイドレートの分解が生じたら、温暖化をますます加速させる可能性もあります。また、南極やグリーンランド氷床の大規模な崩壊が起こったら、急激な海面上昇が生じるかもしれません。グリーンランド氷床が融ければ6メートル、南極氷床が融ければ60メートルもの海面上昇が生じると推測されており、地球史を顧みれば大規模な氷床の崩壊と海面上昇は、突然かつ急激に生じたことが知られているそうです。

 もちろん、これらはあくまでも推測であり、本当にそうなるかどうかはわかりません。また、予測できないことが起こる可能性もあり得ます。しかし、人類活動による二酸化炭素の放出速度が火山活動によるものよりはるかに速く、地球のシステムはそうした急激な変化に対応できないという指摘が事実なら、ことは極めて重大であり、対策も急を要するでしょう。私には、二酸化炭素の削減は喫緊の課題としか思えません。

 温暖化懐疑論については、槌田敦氏や近藤邦明氏のように科学者が自らデータを示して主張するのはわかりますが、専門ではないのに懐疑論者の主張を鵜呑みにし、二酸化炭素の削減や地球温暖化は瑣末なことだと主張している方もいます。生物学者の池田清彦氏や経済学者の池田信夫氏など、とりわけ社会的に大きな影響力を持つ方の中にもそのような発言をしている人がいますが、慎重さに欠けるとしか思えません。

 懐疑論を支持されている方は、是非この本を読んで自らの頭で考えてほしいと思います。

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