消える北極海の海氷
9月21日付けの北海道新聞に「『温暖化で消滅』説に波紋? 北極海氷2年続け拡大」との見出しの記事が掲載されました。2007年に観測史上最小を記録した北極海の夏の海氷が、2008年に続き今年も拡大しているとのこと。しかし、海氷を変化させる要因はよくわかっておらず、調査が進められているとの記事でした。この記事のタイトルからは、北極海の海氷の減少は一時的なものであり、それほど憂慮すべきことではないかのような印象を受けますが、そのあとで連載された館山一孝氏による調査レポート「北極海からの報告」によると、決して安心していられるような状況ではないことがわかります。
館山氏が参加したのは、夏を越した海氷(多年氷)が多く残る、北極ボーフォート海の海域での調査です。このボーフォート海には時計まわりに流れる「ボーフォート循環」があります。報告によると、ボーフォート海の南の海域では多年氷の厚さが通常は4~6メートルあるのに、今年は1.5メートルほどしかなく、内部はスポンジのように穴だらけなのだそうです。北側の多年氷が3~5メートルあるところでは、古い氷でもできてから3年未満で、内部はぼろぼろの状態とのこと。さらにボーフォート循環の海氷の流れるスピードが10年前に比べて4倍以上に速まっているという衝撃的な報告でした。
つまり、海氷の面積は2年続けて増加していても、海氷は薄くボロボロになっているということです。こうした北極海氷の大規模な減少の要因について、館山氏は地球温暖化だけではなく海水の循環が関係しているのだろうといいます。つまりボーフォート海の西側に太平洋の暖かい海水が沈みこんで、水深100メートルほどのところに熱がたまっていることが関係しているようです。館山氏によると、5年以内にボーフォート海の夏の海氷は消滅してしまう可能性があるといいます。
海水の循環については「レジーム・シフトと地球温暖化」で紹介した川崎健氏の「イワシと気候変動」でも説明されていますし、川崎氏も北極海の海氷の融解が海水の循環に取り返しのつかないような大きな影響を与える可能性があることを示唆しています。近代文明は、これまで経験したことのない気候変動や環境変化の中に置かれているといえるでしょう。
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