乗鞍スカイラインの自然破壊
9月19日に岐阜県の乗鞍スカイラインの畳平バスターミナルで、観光客らがクマに襲われて負傷するという事故がありました。20日の北海道新聞には「クマに襲われ9人負傷 岐阜・乗鞍バス発着所に出没」「観光客100人パニック」との見出しの記事が掲載されていました。負傷した方に落ち度があるわけではなく気の毒としかいいようがありませんが、しかし、あたかもバスターミナルに現れて次々と人を襲ったクマに問題があると言わんばかりの記事に、考えさせられてしまいました。
乗鞍の畳平といえば、標高2700メートルほどもある高山帯です。私には、そもそもこんなところに立派なバスターミナルがあり100人もの人がいるということ自体がおかしいとしか思えません。クマにしてみれば、山を歩いていたら建物や駐車場があって人がたむろしているところに迷い込み、びっくりして近くにいた人を襲ってしまったところ、さらに(襲われた人を助けるために)人が駆け寄ってきたのでパニックになり、次々と襲ってしまったということではないでしょうか。あるいは食べ物の匂いなどにひきつけられたのかもしれません。パニックになったのは人だけではなくクマも同じでしょう。しかも、ここはもともと人が大勢いるようなところではなく、大自然の中なのです。
私は畳平には2回行ったことがあります。1回目はまだマイカー規制がされていない時で、バスターミナルの手前で渋滞に巻き込まれました(マイカーで行ったわけではありません)。ハイマツが茂り、すぐ近くにコマクサが生育する2700メートルもある高山帯で渋滞し、車が排気ガスを出しているのです。畳平のターミナルに下り立ち、こんなところに土産物屋や食堂まである立派な建物があることに仰天したものです。そのスカイラインはさらに高山方面に向かって蛇のように山肌を縫っていました。観光を掲げてライチョウの棲みかである高山帯にまで道路を延ばし施設をつくった人の貪欲さに、愕然と立ちすくみました。
2回目はマイカー規制が実施されたために、さすがに渋滞はありませんでしたが、バスやタクシーは自由に乗り入れできるために人の数が減ったわけではありません。素晴らしい景色の一方で、人の多さにも辟易としました。こんなところにまで道路をつけて、登山者や観光客を呼び寄せる必要があるのでしょうか? 道路や建物で自然を破壊し、大勢の人を運んでさらに自然を傷めつけているのです。
かつて大雪山にも横断道、縦断道というとんでもない道路計画がありました。これらは中止になったものの、銀泉台には横断道の開削痕が残っています。もし建設されていたなら乗鞍岳のような状態になり、大雪山の自然は台無しになっていたでしょう。お金のため、利権のために高山帯にまで道路や施設をつくり続け、かけがえのない自然を破壊してきたことこそ、反省しなければならないでしょう。
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