漁港と生態系
昨年から今年にかけ、イソコモリグモの調査で道内のかなりの海岸を見てまわったのですが、漁港が立派になっているのには驚きました。古い地形図と照らしあわせて海岸を見ていくとよくわかるのですが、大半の漁港が拡張されて防波堤が延長されていますし、以前は漁港のなかったところに防波堤で囲った漁港がつくられているところもあります。漁業者が増えたとは思えないのに、漁港だけは増えて立派になっているのです。
はて、これはどうしたことかと思っていたのですが、これについて川崎健氏が「日本漁業 現状・歴史・課題」(「経済」2004年5月号)で指摘していることを知りました。それによると、水産関係予算の中の漁港や漁礁などの大型公共事業費が、1980年度には約1500億円だったのが2000年度には約3000億円に倍増しているというのです。水産関係予算に占める割合も、1980年代までは50パーセント台だったのが、1999年度には80パーセント台になったとのこと。ところが、1980年代半ばに約230万トンだった沿岸漁業生産量が、2000年には160万トンに減っているのだそうです。
1970年以降から「栽培漁業」が中心となり、漁港や漁礁という大型公共事業にお金をつぎ込んだにも関わらず、沿岸漁業は衰退したというわけです。その失敗の要因はどこにあったのでしょうか? いくら設備にお金をかけ、稚魚を放流したところで、魚の育つ水域の生態系全体を保全しなければ成果はあがらないということなのでしょう。
これは漁業だけに限ったことではありません。林業政策とて同じです。戦後の乱伐と拡大造林によって天然林は無惨な姿になりました。造林や保育への多額の補助金投入によって人工林は増えましたが、安い輸入材に押されて多くの造林地が手入れもされず放置されたのです。林業政策の失敗です。また、苗を植えてから収穫までに何十年もかかる林業では、植えっぱなしではうまくいきません。風雪による被害や病虫害などにも見舞われます。
漁業や林業のように、収穫物の栽培を自然のシステムの中に委ねる産業においては、自然のシステムや生態系を無視することができません。自然のサイクルをないがしろにして増産を図ろうとしても思い通りにはいかないのです。そして、自然の摂理を無視した政策は、どこかにツケがまわってくるのです。
立派な漁港や長大な防波堤は沿岸流の流れを変えて海岸の浸食を加速させ、海浜の生物に影響を及ぼし、海岸の護岸化に拍車をかけていますが、それが漁業政策の失敗に起因していたとはなんとも皮肉なことです。(写真は海岸浸食によって建物の際まで断崖が迫ってしまった光景)
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