エゾアシナガグモの巨大な触肢
夏の短い北海道で、いちばんいろいろなクモが見られる季節といえば、やはり7月でしょうか。クモの場合は子グモで越冬する種が多いのですが、春先にはまだ小さく弱々しかったクモが成熟して卵を産むのが今頃の季節なのです。そして、秋風が立つころになると、成体のクモの姿はぐっと少なくなります。
春先に、体全体が緑色に輝いている細身のクモを見たことはないでしょうか? エゾアシアナグモの子グモです。草本や樹木の枝先などに小さな円網を張ります。今ごろの季節には成体になっており、あちこちで見ることができます。雄は成体になると葉裏でじっとしている姿がよく見られますが、このクモの雄は驚くほど巨大な上顎をもっているのです。アシナガグモ類の大きな上顎には大小の突起(牙堤歯)が並んでおり、その配列や形が同定のポイントにもなります。
この上顎は、実は交尾(交接)のときに重要な役割を果たすのです。クモの雄は成体になると精網という小さな網を張ってそこに精液をたらします。それを触肢先端の移精器官でスポイトのようにして吸い取り、雌を探して交尾をするのですが、その時に雄の大きな上顎で雌の上顎を挟み込んでメスの体を固定してしまうのです。そして、雄は触肢を雌の生殖器にあてがって交尾をします。この光景を見たなら、あの巨大な触肢にも納得がいきます。写真は右が雄で左が雌。ちょっと見難いのですが、雄が触肢を雌の生殖口にあてがっているところです。
植物の葉が開いていない春先は、このクモの鮮やかな緑色はとてもよく目立つのですが、緑の生い茂る季節になると、鮮やかな体色も実に周りの色にとけこんで目立たなくなってしまいます。ちなみにミドリアシナガグモというクモがいるのですが、こちらは名前にミドリとついているのに緑色ではありません。ミドリアシナガグモに限っては、名は体を現わしていないようです。
エゾアシナガグモの雌は、産卵すると葉裏で卵のうを守るようになります。今ごろの季節に、ヨブスマソウなどちょっと草丈の高い植物の葉裏などを覗くと、じっとしているエゾアシナガグモが見られるかもしれません。
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