時代遅れの十勝川の治水
「ショートカットの愚行」でも書きましたが、十勝川の相生中島地区で大掛かりなショートカット工事が始められようとしています。
この工事は、洪水の被害から市街地を守ることを目的としているのですが、何がなんでも水が溢れないようにしたいという河川管理者の考え方がよく表われている計画です。本当にこんな工事が必要なのでしょうか? 北海道開発局帯広開発建設部では、十勝川が氾濫したときのシュミレーションを公表しています。「150年に1回起こる大雨が降ったことにより、十勝川が氾濫した場合に想定される浸水の状況」とのことです。で、このシュミレーションでは、堤防が決壊した場合を想定していることがわかります。しかも降雨量をどの位に設定し、水位などをどのように計算したのかもわかりません。根拠が曖昧なシュミレーションによって決壊による被害をアピールし、治水のための工事を正当化しているように感じられて仕方ありません。
帯広市一帯では近年は大きな水害は起きていません。5月8日の北海道新聞に1981年の集中豪雨のときの相生中島地区の空中写真が掲載されていました。このときの降雨量は数百年に一度の確率だったのですが、それでも堤防は決壊しなかったのです。それなのに、数十億円もかけて蛇行部分を長さ約2キロメートル、幅270メートルも掘削してショートカットするというのです。まるで工事をすることが目的のような事業です。こうして水を速く流したら、河口部で内水氾濫しやすくなるのです。
3月に札幌で開催された「川は流れる」というシンポジウムに参加しましたが、そこでとても印象に残ったのは、宮本博司氏(元国土交通省防災課長・前淀川水系流域委員会委員長)の「洪水を川に押し込める」という考えが誤りであるという主張でした。川に水を押し込めるという発想は、堤防の決壊による災害の危険性を増大させるだけだということです。つまり、一定以上の雨が降ったなら、水を河川の外に分散させなければならないということです。
川辺川ダムの報告をした、つる詳子さんも、「球磨川流域では昔から洪水はあったが水害はなかった。川の近くに住む人々は、水に浸かることを前提に生活していた」という話をされました。「堤防がなかったころは洪水になっても水はすぐに引いたが、堤防ができてからはなかなか水が引かなくなった。以前は洪水時に水かさが徐々に増していったが、ダムができてからは急に増すようになった」とも。水に浸かることを前提に生活していた人々にとって、ダムや堤防は害でしかないというのです。
どうしても洪水対策が必要だというのであれば、市街地の上流に遊水地をつくるなどして水を分散することを考えるべきでしょう。また、洪水の可能性がある地区では住宅を高床式に変えていくなど、発想の転換も必要ではないでしょうか。相生中島地区は蛇行すべくして曲がっているのであり、無理に直線化したなら下流部の危険性を高めてしまうことを考えるべきです。過去の過ちを省みない、時代遅れの発想としか思えません。
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