道北のイソコモリグモ
18日から19日にかけて、道北地方へイソコモリグモの調査にでかけました。道北ではこれまで3箇所で記録がありますが、いずれも点としての記録です。そこで、生息可能な海岸線の把握と生息地の環境を調べることが今回の目的です。
18日は諸滑川の河口からオホーツク海沿いに北上しました。地形図と空中写真から、主要な生息地は浜頓別から北の海岸線で、諸滑川から浜頓別の間にはほとんど生息していないだろうとの予測をたてていました。ところが、行ってみないとわからないものです。諸滑川から幌内川の河口まで、意外なところに生息地が点々とあったのです。これは新知見でした。
しかし、やはり最大の生息可能区域は浜頓別から北です。浜頓別から北に続くベニヤ原生花園から猿払にかけての海岸線は広大な生息地で、とりわけベニヤ原生花園は奥行きもある良好な生息地でした(写真)。サロマ湖の生息地もそうですが、汀線から内陸に向かって砂浜がなだらかに広がり、まばらな海浜植物帯が続いているような環境がイソコモリの最適な生息地です。
18日は早朝に出発したのですが、浜頓別にたどりついたときには夕暮れが迫っていました。稚内まで行く予定をあきらめ、夜は猿払で車中泊。北海道は広くて調査も大変です。
この晩は低気圧が通過したために何と暴風雨でした。風があまり当たらないところを探したかったのですが、海岸はどこもものすごい風です。仕方がないので公園の駐車場に車を止めたのですが、まるで船に乗っているかのように車は揺れっぱなし。あまり眠れなかったおかげで(?)翌日は早朝から調査を開始できました。19日は猿払から北上し、以前確認されていた上苗太路でも確認できました。
オホーツク海側を見たあとは、宗谷岬からノシャップ岬をまわって日本海側の調査です。ここではサロベツ原野の北部から天塩川の河口にかけて生息可能地が広がっていることが確認できました。こちらの生息地はオホーツク海側とはだいぶ雰囲気が異なります。内陸に砂丘列が続いているのですが、波が海側の砂丘を洗っていて砂浜は広くはありません。イソコモリグモは、波に洗われる砂浜にも、植物が密生した砂丘上にも生息できないのですが、削られた砂丘から砂が崩れ落ちて海浜植物がまばらに生育している斜面に巣穴があります(写真)。流れついているゴミの位置で、波が到達する地点がおおよそ分かります。
つまり、生息可能地は砂浜に沿って線的にしかないのです。どうやらイソコモリグモにとってそれほど好適な環境とはいえそうにありません。このあたりでも海岸浸食が進んでいるようですが、道路と海岸の間に砂丘がありますので当面は生息できそうです。ただし、護岸工事で環境が変われば危機的になるでしょう。
イソコモリグモが安定して生息するためには、海浜植物がまばらに生育する高波をかぶらない砂浜の存在が欠かせません。海からの砂の供給が減少したり、波による侵食によって崖状になりまばらな海浜植物帯が失われてしまうと、イソコモリグモにとっては危機的な状況になります。
浜頓別は学生時代以来ですから、35年ぶりくらいでしょうか。立派な木道や看板に、移り行く年月を感じてしまいました。サロベツ原野の稚咲内にも砂利道をバスに乗ってたどり付いたものですが、この辺境の地に食堂やトイレができるとは誰が想像できたでしょう。便利になった陰でありのままの風景が失われ、自然そのものの魅力が色あせていく気がしてなりません。
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