渡辺勝利氏への反論 第3弾
出版権と所有権
渡辺氏は、「自費出版を殺すな3」で、私が本の所有権と出版権を混乱しているとして批判しています。はじめに断っておきますが、私は本の所有権と出版権が違うことは十分に認識しています。
渡辺氏が指摘している「文芸社・新風舎の盛衰と自費出版(2)「契約」締結の重要チェックポイント」で、私は自費出版と商業出版の契約について取り上げています。ここで私が取り上げている商業出版の契約書とは日本書籍出版協会が作成している「出版契約書(一般用)」を指し、商業出版において一般的に用いられているものです。そして、これは出版権設定契約(著作権法第79条以下に規定)という法律構成をとっています。文芸社や新風舎の契約書はこの契約書の雛形をベースにしたものです。したがってこの記事においても、商業出版においては出版社に出版権を設定すると説明しました。この出版権設定契約では出版社の商品として本をつくることが前提となっていますから、出版権設定によって自動的に出版社に所有権のある本をつくることになります。そこで、「協力・共同型出版における契約では、出版権を出版社に設定することで本は出版社のものになってしまう」という説明をしたのです。
共同出版問題では「所有権が出版社にあるか著者にあるかがポイント」とよく言われますしそれはその通りです。ところが上記の出版契約書には所有権のことは記されていません。だからこそ、わざわざこのような説明をしているのです。
ところが渡辺氏はこのことを理解できず、「ここで言いたいのは『契約書に出版権は出版社に帰属すると書かれているので、自費出版ではない』という考え方は間違っているということである」と勝手な解釈をしているのです。私は「契約書に出版権は出版社に帰属すると書かれているので、自費出版ではない」などとは考えていませんし、そのようなことはどこにも書いていません。
渡辺氏がこのようなことにこだわるのは、ご自身の会社(MBC21・東京経済)の自費出版の契約書で出版権を設定されているからでしょう。渡辺氏の会社の契約書は渡辺氏の著書「考察 日本の自費出版」(東京経済)に紹介されており、私は目を通しています。この契約書は、出版権が出版社に設定されてはいますが、上述した商業出版の契約書の雛形を利用しているものではありません。著者には印税ではなく本の売上金を支払うという制作請負・販売委託契約ですから、商業出版や協力・共同出版の契約には該当しません。
渡辺氏は、自費出版における出版権について以下のように説明しています。
「自費出版の著作権は著者に帰属するのは当たり前であるが、それを書店流通させる本として仕上げた場合、素人の原稿を商品として編集した編集著作権なるものは、出版社に帰属すると考えるのが正しい。 つまり、著者が持ち込んだ生原稿を完全原稿にし、タイトルにも工夫を凝らし、本として出版したものがそのまま他社から出版された場合、出版社の編集権が著者との契約部数以外で他社に侵されたことになる。その上、市場での混乱を招く結果となる。 それゆえ、出版社から書店流通される本の出版権利は出版社に帰属するのが一般的である。」
書店流通する自費出版において出版権を設定するかどうかは出版社の考え方によって異なります。編集著作権にこだわっているようですが、「編集著作権なるものは、出版社に帰属すると考えるのが正しい」とうのはかなり強引です。アマチュアの著作物でも完成度が高く編集で大きく手を加えなくてもいい作品もあるはずです。そのような作品にまで編集著作権を主張するのは不適切でしょう。ケースバイケースで対応すべきことだと思います。渡辺氏の指摘している事柄は、出版権の設定という形をとらなくても編集著作権の扱いや他社から出版する場合の取り決め等を契約書に記載しておくことで対処できるのです。
なお、「考察 日本の自費出版」(2004年発行の第1刷)に掲載されている渡辺氏の会社の出版契約書について、私見を述べさせていただきます。ただし、これ以降に契約書が書き換えられている可能性があることをお断りしておきます。
商業出版は出版社が本を販売することを目的とした出版です。これに対し、自費出版は著者の本を制作するサービスです。その本を出版社が書店などで販売する場合は流通サービスを付加させることになります。自費出版では制作と販売という異なる二つのサービスがあります。
渡辺氏の会社の契約書(販売するタイプ)は名称が「出版契約書」となっていて制作と販売が一体となっており、第一条で出版権の設定が定められています。商業出版の契約書と似た体裁になっているのです。請負(委託)契約であるなら出版請負(委託)契約書と明記するか、あるいは制作と販売の契約書を別々にしたほうがわかりやすいのです。本の所有権もよりわかりやすくなります。NPO法人日本自費出版ネットワークの作成したガイドラインでも、委託制作契約と委託販売契約の二つの契約内容を明記あるいは別個に作成することを盛り込んでいます。
ちなみに文芸社の売上還元タイプの契約書は「出版委託契約書」となっており、出版委託と販売委託が分けて記載され、本の所有権についても明記されています。編集著作権は甲(著作者)に譲渡されるとしているほか、契約の有効期間内での独占的出版の許諾と排他的使用が定められています。出版権を設定しなくても渡辺氏の指摘している問題はクリアされています。請負契約においてはこのような契約書の方が適切であり、著者にとってもわかりやすいと私は考えます。
渡辺氏は、自社の契約書にこだわるがために、私が出版権や所有権について理解していないと勘違いして批判しているようです。
*この記事へのコメント 「com090205.doc」をダウンロード
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