次のライバルは幻冬舎ルネッサンスか?
「創」の2月号に「苦境の出版界だからこそ問われる編集力」として、植田康夫氏(読書人取締役編集主幹)、清田義昭氏(出版ニュース社代表取締役)、松田哲夫氏(筑摩書房顧問)の対談が掲載されていました。
2008年のベストセラーのベスト10のうち4つが文芸社の血液型の本だったわけですが、これについては「世も末」との感想も。そのこともあって、自費出版のことについても清田氏が若干触れています。そこで清田氏の発言について、私の感想を書いてみたいと思います。青字が清田氏の発言です。
自費出版がこれだけベストセラーになったというのは、文芸社にとってはいい宣伝になるんですよね。
確かにそうでしょう。何しろテレビのCMでも宣伝したのですから。文芸社にとっては願ってもない幸運だったでしょうね。たとえ「世も末」と評されても。
新風舎なきあと、文芸社のライバルは幻冬舎ルネッサンスではないですか。宣伝も結構やっていますし、新書で出すという、また一歩セグメントされたところがある。
講談社や小学館などの大手出版社の自費出版部門ではなく、幻冬舎ルネッサンスを名指しにしているというのは、清田氏が幻冬舎ルネッサンスの出版形態が基本的には文芸社と同じであることを理解しているからでしょう。要するに、販売を前提に会社の本をつくって会社が売上金を得、著者には印税を支払うタイプです。著者には契約書籍の出版費用以上の金額を請求していると考えられ、水増し請求やその流用(原稿募集の広告費などへの)が疑われるのは文芸社と同じです。
幻冬舎ルネッサンスの場合、まず幻冬舎の知名度が利用できること、それに文芸社ほど悪評がたっていないことは有利でしょうね。いわゆる賞ビジネスもやっていないようですし、編集に力を入れている点など評価される向きもあるようです。でも、いくら編集に力を入れているといっても、原稿を選ばずに流通本にしてしまうこと自体がおかしいですね。いくら手を入れたところで、売れないものは売れませんし、まして素人の本がそれほど売れるとは思えません。売上収入はさほど期待できず、かといって原稿募集の広告にお金をかけなければ著者が集まらないわけで、NHKの家計診断で紹介されていたように300万円もの高額な費用を請求することになるのです。この費用は競争する際のネックになるでしょうね。
さらにやっかいなのは「個人出版」などという呼称を使っているところです。「個人出版」という呼称は、悪質な共同出版と区別するために、出版社が主体の出版ではなく著者個人が出版の主体者(従来からの自費出版)であるという意味を込めて使われるようになった呼称です。出版社の商品として本をつくり売上金が出版社に入る出版形態に「個人出版」などという呼称を使っているのであれば、騙しに近いといえます。最近のHPでは、著者に印税を支払う形態であることなどを明記しなくなったようですが、これも意図的にそうしているとしか思えません。
自費出版の裾野は相当広いと思います。新風舎と文芸社の競合の中で自費出版ブームが起こって、商業出版社も自費出版部門の宣伝を自社媒体でやったりしましたからね。 ビジネスモデルを文芸社が作り、それをより進めたのが新風舎だったと思うのですが、ああいう事件があった後、自費出版について一定程度ガイドラインができたことはよかったのではないかと私は思っています。それが通用するガイドラインかと言えば、疑問がないとは言えないですけどね。新風舎倒産のおかげで、少し透明化されてきたということは言えると思います。
正確にいうなら、近代文藝社が商業出版と自費出版の中間型だといってBタイプという形態をつくり、それが新風舎や文芸社の共同出版の原型になったといえます。また、競合の中でブームが起こったというより、新聞や雑誌による広告合戦によってブームが作られてしまったということではないでしょうか。あのような広告がなければ、素人の本を書店販売するなどということがブームになるとは考えられません。
新風舎の倒産やガイドラインについては微妙な書き方ですね。清田さんは新風舎倒産にまつわる疑惑は当然耳にしているでしょうから。共同出版を自費出版といっているのは、やはり業界の方の視点でしょうね。全額著者が支払っているから自費出版という感覚なのでしょう。それにしても商業出版業界の方は、いわゆる著者買取とか一部費用負担といった条件での商業出版と、共同出版の関係をどう捉えているのでしょうか?
ガイドラインといっても、リタイアメント情報センターのつくったものと、日本自費出版ネットワークのつくったものがあります。そして両者とも自費出版業界の方たちが深く関係しているのです。前者の賛同事業者の中には文芸社や日本文学館が入っていますし、後者でも??と思ってしまう事業者があります。賛同事業者に入っていれば安心ということではありませんし、入っていない会社は信頼できないというわけでももちろんありません。ガイドラインで透明化されたというより、わかりにくくなったという側面もあります。
文芸社の次のライバルが幻冬舎ルネッサンスであるなら、費用で対抗するのか、編集で対抗するのか、錯誤のさせ方で対抗するのかといったところでしょうか。
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