択伐で失われる生物多様性
少し前の北海道新聞に、「林業と生物多様性」のことが書かれていました。北大北方生物圏フィールド科学センター、雨竜研究林長の吉田俊也氏による記事です。
冒頭で、国立公園内などの天然林を守ることは論をまたないとしていますが、これは当然ですね。
北海道ではカラマツやトドマツなどの人工林による木材生産のほかに、天然林の択伐が広く行なわれてきました。択伐というのは、本来は、森林内の木の総量を一定に保つよう、生長量に見合った分だけを抜き伐りするというものです。このような伐り方をしていれば、森林の生態系はそれほど大きく変わらないかのように思えます。しかし、吉田氏は「生物多様性保全に効果的な森林の伐採や管理の方法は、決して木の蓄積や生長量だけから導かれるものではない」としています。健全な森には、老齢樹や倒木、枯損木なども必要なのです。
択伐によって生物多様性が低下してしまった例として、原生林と、それに隣接した択伐林(30年前に択伐した森林)に生育している植物の種数が示されていました。北大雨龍研究林での調査データです。それによると、原生林での種数が66種であるのに対し、択伐林では36種しかなく、原生林のほうがはるかに多様性に富んでいることがわかります。とりわけ、木本の種数は原生林では択伐林の2倍にもなっています。
広葉樹を主体とする森林と針葉樹を主体とする森林では生物多様性も違ってきますので、すべての原生林と択伐林でこのような違いがあるとはいえませんが、たとえ抜き伐りであっても生物多様性の面から見たなら生態系に大きな影響を与えているといえるでしょう。注意深く森を見ている人は、おそらくそのようなことを実感しているのではないでしょうか。知らず知らずのあいだに、以前は生息していた動植物が減ってしまったり見られなくなったり・・・というように。
また択伐林といっても実際には生長量をはるかに超えた量を短い周期で伐採しているので、森林の蓄積量はどんどん少なくなっており、樹種構成なども変わっています。このような森林では、まずは伐採を中止してできるだけ元の森林に近い状態に戻さなければ、本来の森林のもつ生物多様性は失われる一方でしょう。
林野庁の択伐を見ていると、生物多様性の保全などまったく頭に入っていないとしか思えません。
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