ショートカットの愚行
20日の北海道新聞十勝版に、「相生中島の新水路着工へ」という記事が掲載されていました。十勝川の相生中島地区は河道が狭く湾曲していて洪水時に水が速やかに流れず水害を引き起こす可能性があるので、洪水時にのみショートカット(直線化)した水路に水を流すというものです。総事業費は20~30億円で、工期は3年程度とのことです。
この計画策定にあたって、河川管理者である帯広開発建設部は新聞広告などで市民を公募し、専門家なども交えたワークショップを開いて検討を進めてきました。
このように書くと、いかにも住民参加による治水対策かのように感じますが、実態はとてもそのようには思えないものです。以下のサイトにワークショップの報告書があります。
そもそもなぜこの地域で十勝川が蛇行しているのでしょうか? ここに掲載されている図を見ていただければわかりますが、相生中島地区の下流左岸で札内川が合流しています。流速が速く大量の礫を運ぶ札内川は、十勝川との合流点で流速を落とし、そこに大量の礫を堆積させたのです。そのために十勝川は大きく蛇行せざるをえませんでした。十勝川は札内川の合流により、自然の摂理で蛇行しているということです。
地図を見ていただけるとわかりますが、札内川の左岸には帯広川が流れこんでいます。実は帯広川は本来、札内川ではなく十勝川に注いでいました。なぜなら、札内川は十勝川との合流によって左岸に大量の礫を運ぶので、帯広川は物理的に合流できないのです。ところが開発建設部は治水の名目で水路を掘削し、無理やり札内川に合流させてしまったのです。
その結果どうなったでしょうか? 札内川が運ぶ礫によって合流点は河口閉塞を起こしたのです。合流点に造られた「親水公園」は「浸水公園」となって水質も悪化しました。
十勝自然保護協会は、開建に対して帯広川を札内川につなげたのは誤りであったことを指摘し反省を求めたのですが、開建は決してその誤りを認めようとしませんでした。ここで誤りを認めてしまったなら、相生中島地区のショートカット計画にも影響してくるでしょう。ともに自然の摂理に反する治水なのですから。
そこでどうしたかというと、「NPO法人 十勝多自然ネット」という団体が新たな迂回水路の掘削を提案しました。以下のサイトをご覧ください。
http://homepage2.nifty.com/near-nature-net/park.html
しかし、いくら迂回水路をつくったところで、札内川による砂利の運搬が止まるわけではありません。結局、帯広川の水をスムースに流すために、砂利を除去するなどの作業を永遠にしなければならないでしょう。この多自然ネットというのは地元の建設業者などによって組織されている団体です。要するに開発建設部の取引先です。帯広開発建設部は明らかに間違った河川改修をし、その対応策として多自然ネットが自分たちの仕事づくりを提案したといえます。
話しを本論に戻しましょう。確かに川が蛇行する部分では流速が落ちますが、それを早く下流に流そうとしてショートカットしたらどうなるでしょうか? 下流部の水位が速く上昇し、河口部などで水害が生じやすくなります。ショートカットによる治水はとっくに破綻しているのに、なおもこだわり続けているのが開発建設部なのです。自然の摂理に反したショートカットは、どこかで歪みがでてくるのではないでしょうか。
住民参加によるワークショップが欺瞞であるというのは、このような蛇行の理由やショートカットの問題がきちんと説明・検討されたと思えないからです。ショートカットを前提に、中島地区の自然環境をどうするかということばかりに目を向けた話合いが行なわれてきたといえます。
釧路川では自然再生を看板に掲げて直線化した河川の蛇行化をし、十勝川では逆に直線化をするというのです。私たちは、こうした国の欺瞞こそ見抜かなければならないでしょう。
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