議論を呼んだチビクロ問題
チビクロ問題といっても、絵本の「ちびくろサンボ」の話題ではありません。チビクロハエトリというクモの話題です。
先日の「チビクロハエトリの謎」という記事が「クモ蟲画像掲示版」で話題になってしまったようです。ありゃりゃ・・・。(http://xbbs.knacks.biz/kjrshoji/a2924参照)もちろん議論を起こすつもりで書いたのではありませんので、きっかけをつくってしまった当事者としてはちょっとびっくり。
問題となっているクモの画像はこちらでどうぞ。論争の最中にこのクモの画像を投稿された方がいますので。 http://xbbs.knacks.biz/kjrshoji/a2954 確かにハエトリグモの研究をされている池田博明さんは、ご自身の「クモ生理生態事典」ではチビクロハエトリHeliophanus aeneusだけを取り上げています。
日本のクモの目録を発表されている谷川明男さんは、チビクロハエトリとウスリーハエトリHeliophanus ussuricusの両方を目録に掲載しています。
新海栄一さんは、「日本のクモ」(文一総合出版)でも「写真日本クモ類大図鑑」改訂版(千国安之輔著、偕成社)でも、チビクロではなくウスリーハエトリとしています。
私は先の記事に書いたように、北海道(千国図鑑の写真)で私が確認しているものはウスリーであり、日本にはチビクロが分布している可能性は低いという見解です。その理由はいうまでもなく、生殖器の形態がチビクロではなくウスリーの記載と一致するからです。
Spinnentiere Europasという写真図鑑にチビクロハエトリが掲載されています。ネットでもチビクロの画像を見ることができます。外見はウスリーによく似ていますが、雌の脚はウスリーのような黄色ではありません。私はチビクロの写真を見たとき、日本のものはチビクロとは違うと直感しました。ロシアのクモのリストを見ても、チビクロの分布の中心はヨーロッパです。私がチビクロは日本に分布していない可能性が高いと考えるのは、こうした理由からです。
研究者によって見解が異なることはよくあることですし、それぞれの見解はもちろん尊重します。科学というのは、さまざまな研究者が自分の見解を公表し、議論を重ねることで真実を追究していくものではないでしょうか。議論があるのは多いに結構です。
ところで、池田さんも谷川さんもチビクロとしている個体の生殖器の図を示していないので、私にはどのような理由でチビクロと判断しているのかわからないのです。それぞれの研究者の判断基準が分からない以上、同定者自身が生殖器を観察し、文献などに当たって判断するしかありません。チビクロの生殖器の図はネット上にも掲載されています。標本所有者が今一度、チビクロとしていた標本を確認することで解決できる問題でしょう。
クモの研究者はおそらく誰でも誤同定の経験があるはずです。もちろん私もそうです。誤同定をしながら経験を重ねていくことで、同定のコツが身についてくるものなのです。そして、誤っていたことがわかれば訂正するしかありません。
日本人の特質かもしれませんが、大先生あるいはその道の専門の方と見解が異なる場合、指摘しにくいがために時として黙認してしまうこともあるようです。しかし、そのような遠慮こそ混乱を招き研究を遅らせてしまうことになりかねないのではないでしょうか。研究においては気兼ねや遠慮を持ち込まず、個々の研究者が率直に自分の見解を明らかにしていくことが求められると私は考えています。
なにやら私の記事がきっかけで、クモ蟲画像掲示板の存続問題に関わるようなコメントまで登場してしまったようで、ちょっと当惑してしまいました。私の見解などにこだわらず、楽しく続けてもらえたらと思っています。
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