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2008/11/20

ジャーナリストと取材対象

 一昨日昨日につづき、上杉氏の「ジャーナリズム崩壊」に関連した話題です。この本のエピローグで大変興味深い指摘がなされていました。要約すると以下のような内容です。

 ニューヨーク・タイムズの契約カメラマンであるケビン・カーター氏は、1993年にスーダンを襲った大飢饉の悲惨な現状を世界に伝えるために現地を訪れ、1羽のハゲワシが飢えで地面にうずくまっている少女を狙っている写真を撮影した。ニューヨーク・タイムズが一面トップでその写真を掲載すると、絶大な反響がよせられ寄付が集まった。この写真がピュリッツァー賞をとると、なぜ少女を助けなかったのかということで「報道か、人命か」という論争に発展した。カーター氏は自殺してこの論争に終止符が打たれた。その結論は以下のようなものである。

 「ひとりの少女の生命を救うことで、同じ境遇のさらに多くの子どもたちの生命が危機に晒される可能性がある。それを避けるためにもジャーナリストは対象(被写体)に触れるべきではない」

 これを読んで、そういえばそんな論争があったと思い出しました。上杉氏は「取材対象とのそうした距離感を保つことこそ、ジャーナリストに求められていることではないだろうか」と意見を述べています。

 翻って、尾崎浩一氏はどうでしょうか? 取材対象であった新風舎被害者を集めて被害者組織をつくり、自分が世話人となって積極的に関わりました。被害者と一体となり、倒産を煽るかのように繰り広げられた彼の言動は、結果として多くの倒産被害者を生むことにつながったのではないでしょうか。そして、問題の多い共同出版を認めてしまったのではないでしょうか?

 ジャーナリストの役割とは、社会的事象について取材や調査を行って報道することであり、取材対象者とは一定の距離を置くべきなのです。ジャーナリストが被害者の立場を考えることは必要ですが、同化して共に行動することは禁物でしょう。

 同じく彼の取材対象である自費出版業者が、リタイアメント情報センターのガイドライン賛同事業者になっています。取材対象がNPO法人と深く関わっているのです。リタイアメント情報センターは、「私たちは健全なリタイアメント・ビジネスの普及による消費者保護と、より安心で安全な生活環境を整備してゆくための機関として『リタイアメント情報センター』の設立を提唱するものです」と、あたかも市民に門戸を開いた中立の団体を装っていますが、ガイドラインを設けて賛同事業者を掲載している自費出版部会はまるで業界団体であるかのようです。

 彼の取材対象者との癒着はジャーナリストとしての一線を越え、規範を逸脱しているとしか思えません。このようなジャーナリストを、私は他には知りません。彼と関わりを持っている被害者や自費出版業者は、このことに疑問を抱かないのでしょうか?

 リタイアメント・ビジネス・ジャーナルのホームページは最近リニューアルされ、あれだけ騒いでいた新風舎批判記事を消してしまいました。ジャーナリストが意気込んで書いた記事を消してしまうとは不可解です。私には証拠隠滅のようにすら思えます。そして、このホームページでは、日本文学館の本を紹介したり、文芸社から本を出版している小田俊明氏の書評を掲載しているのです。また、リタイアメント情報センターでは同じく小田氏のコラムを掲載しています。いよいよ怪しいではありませんか。

 「注意すべき人物・団体とは?」で書いたように、私たちは事実こそ見つめなければなりません。私は、文芸社との癒着疑惑のもたれる尾崎浩一氏や柴田晴廣氏、リタイアメント情報センターこそジャーナリストが取材すべき対象だと思います。

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