堆砂で埋まる富村ダム
一昨日は、十勝川の支流であるトムラウシ川に造られた富村ダムを見てきました。
富村ダムは1978年に北海道電力が造った発電用のダムですが、運用開始からわずか30年で大量の土砂が溜まってしまったのです。北海道電力では、このまま堆砂が進むと数年後には設計堆砂面に達し、ダムの安全性に影響を与えたり洪水時に水位が上昇して周囲の森林に悪影響を与えるとの理由で、堆砂の処理をしなければならないとしています。
ところがこのダムは非常に急峻な谷あいに造られています。ダムの堤体に行くにはトンネルを通っていかなければなりません(もちろんトンネルの入口は扉があって、一般の人は立入りできません)。上流に通じる林道は湖岸ではなく尾根につけられているために、堆砂を除去するといってもダム湖の岸にトラックをつけることができません。
で、どうすると思いますか? 北電は隣の沢にある林道から尾根の下にトンネルを掘ってダム湖に溜まった土砂を運びだすというのです。しかし、ここは国立公園の第3種特別地域内。すぐ上流には原生自然環境保全地域もあり、希少な猛禽類なども生息しています。トンネル工事をしたり、大型ダンプがひっきりなしに通ることになったなら、野生生物にも影響を及ぼすことでしょう。
ダムをつくれば土砂が溜まるのはわかりきったことですし、当然、設計時に堆砂のことを考えています。でも、土砂が溜まってからトンネルを掘るなどというのは、計画時に堆砂処理のことまで考えておらず、堆砂の予測も甘かったとしか思えないのです。
写真を見てください。ダム湖の上流側はすっかり土砂に埋まって陸地化し、草本のほかにヤナギやケヤマハンノキまで生えてきています(上の写真は陸地化したところから下流側を見たもの、下の写真は上流を見たもの)。このあたりはもともと浅かったとはいえ、すごい堆砂量です。
北電は、なぜトンネルを掘ってまで堆砂を除去しなければならないのでしょうか? 富村ダムの湛水面は大きくはないのですが、富村発電所は4万キロワットもの発電量があります。北海道の水力発電所の中では、発電量が大きな方なのです。ところが北電の調査によると、平成18年の10月現在で総貯水容量内の全堆砂量が56パーセント、有効容量内の堆砂が40パーセントに達しているのです。
ダムを計画する場合、ふつう100年分の堆砂量を堆砂容量としてとり、無効容量として扱います。ところが、たった30年で半分以上土砂に埋もれてしまったのです。このまま放置したなら発電量にも影響が出ると考えているのでしょうか?
この現実からわかることは、恐らくどこのダムにも大量の土砂が溜まっているということです。しかも予測していたよりはるかに早く大量の土砂が溜まっています。これからあちこちのダムで永遠に堆砂除去が続けられることになるのではないでしょうか? そして、その費用は私たちの電気料金に上乗せされていくのでしょう。
これからはダムの堆砂は避けてとおれない問題です。黒部川のダムのように下流に流してしまったら河川の生物に壊滅的な影響を与えます。堆砂のことを考えず安易にダムを造りつづけてきたことを反省しなければなりません。
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