共同出版のビジネスモデルは未完成?
「魑魅魍魎の共同出版批判者」のコメントで、柴田晴廣氏が「共同出版といわれるビジネスモデル、これに対しての私の見解は、以前からいっているように、完成したものではなく、未だ模索状態が続いていると思っております」と、とても不思議な発言をしています。そこで、共同出版のビジネスモデルなるものについて考えてみましょう。
問題とされている共同出版の手法が近代文藝社に端を発していることは、「著者だけの責任?」のコメントでも触れました。さて、それにつづいて似たような商行為を拡大していったのは文芸社や新風舎、碧天舎などでした。
企画出版・共同出版(協力出版など呼称はさまざま)・自費出版という3種の出版形態を掲げ、アマチュアの著者から大々的に原稿の募集をはじめたのです。企画出版は商業出版のことですし、自費出版は著者の本の制作を請負う制作サービスですから説明の必要はないでしょう。問題となるのは共同出版です。
そももそも共同出版の触れ込みは、商業出版では採算はとれないが、販売する価値のある作品については、費用の一部を著者に負担してもらい出版社の商品として出版するというものでした。そこで出版社は商業出版の契約書のひな型を利用したのです。要するに、出版社も費用・リスクを負う商業出版の一形態なのです。このこと自体はとりたてて問題があるとは思いません。しかし、問題はその実態でした。
そもそもアマチュアの書いた本の大半はほとんど売れないというのが現実ですから、アマチュアの本を出版するのであれば、大半は販売を前提としない自費出版にならざるを得ません。そして販売収益によって採算がとれる見込みのある一部の作品にしか商業出版や共同出版は提案できないのです。著者も、当然ながら共同出版に選ばれたのなら自費出版よりレベルが高いと評価されたと受けとめます。
ところが、実際には大半の作品を高く評価して共同出版を提案していたわけです。販売しない自費出版を行っていたのかどうかも定かではありません。かつて文芸社では、審査委員会があってあたかもすべての作品を厳正に審査して出版形態を選定していたかのように振る舞っていましたが、それも元スタッフの告発から虚偽であることがわかりました。かつての文芸社の新聞広告には3種の出版形態が示され、審査のうえ出版形態を提案すると書かれていましたが、今は販売しない自費出版は提案していないようです。
そして費用の一部を負担してもらうなどということも虚偽であり、著者に請求していた費用には出版社の利益が加算されていたということです。これが私の言っている水増し請求です。出版社が本当に費用の一部を負担しているのなら著者は出版社の顧客にはなり得ません。ところが実際には顧客にされていたのです。
このような手法が批判を浴びた共同出版の実態といえます。まさに著者を錯誤させて水増し請求をしていたといえます。詐欺的商法以外の何者でもないでしょう。
新聞に大きな広告を出して共同出版に誘い、こうした手法で会社の規模を大きくしていったのが新風舎や文芸社、碧天舎に代表される共同出版社です。会社の経営規模が大きくなればなるほど多くの著者を獲得しなければなりません。大きくなった出版社が経営を支えるためには目立つ広告やコンテストなどによる著者集めの戦略がどうしても必要になります。
しかし、新聞広告には莫大な費用がかかるために、著者の負担額を増大させたり本の質を低下させることになります。巨額な広告費用とて、著者がかなりの部分を負担しているといえるのです。
企画出版やコンテストを掲げて著者の心をくすぐり、売れそうにないレベルやジャンルの作品にまで共同出版を誘う。そして電子出版だのオプションの広告だのと言っては次々と著者にお金を出させようとする出版形態といえるでしょう。
これが大手2社もが倒産した共同出版のビジネスモデルです。商業出版と自費出版を混同させ、著者を錯誤させて不当な費用を請求する騙しのモデルともいうべきものです。
ところが私がインターネット新聞JANJANで水増し請求を指摘すると、費用の分担を曖昧にするようになりました。かつての文芸社の新聞広告には「著者と当社が協力して費用負担」と書かれていましたが、今はそのような記述はなくなりました。しかし、たとえすべての出版費用を著者に負担してもらうということであっても、著者から利益を得ていいということにはなりません。原稿募集の新聞広告などの営業費は契約書籍とは無関係のものですから、著者に負担させるのはおかしいのです(ただし、請負契約の場合はこの限りではありません)。
さらに、文芸社も新風舎も協力出版とか共同出版という呼称をやめて、自費出版の一形態であるかのように振る舞いはじめました。著者の本をつくり、販売を請負うサービスの契約ではないのに、サービスの契約(委託契約)であるかのように振る舞うようになったのです。これとて著者の錯誤を誘っているといえるでしょう。このように修正を加えてきたのは、万一提訴されても負けないようにするためではないでしょうか?
共同出版というビジネスモデルが「完成したものではない、未だ模索状態が続いている」というのはどういう意味なのでしょうか? こうした経緯を見ている限り、騙しを巧妙化させ、提訴されても負けることのないよう法的により強固なものにしていくという以外に「模索状態」などということは考えられません。
また、当初の触れ込みどおりに「出版社の出版事業に、著者が費用の一部を出資して協力する」という出版形態であれば、商業出版の一形態であり、特別なビジネスモデルでも何でもありません。
出版社があくまでも著者を顧客とし、著者から利益を得たいと思うのであれば、共同出版とか印税タイプなどという形態はやめて純粋な自費出版のみにすべきでしょう。すなわち制作請負契約にして著者に所有権のある本をつくり、販売サービスを付加する場合は著者には印税ではなく売上金を支払うべきです。ただし、レベルの低い作品や販売の難しいジャンルの作品にまで販売を前提とした出版形態を勧めるべきではありません。売れそうにないような本にまで大部数を提案するのであれば、著者をもてあそんでいるに等しいといえるでしょう。
また法外な費用だと批判されたくないのなら、会社の規模を縮小し、広告にお金をかけて著者を集めることは慎むべきです。
柴田氏は、私が「文芸社にとって有用な情報を流しすぎている」と感じているとのことですが、事実を伝えていくことに何の問題があるのでしょうか? 事実を伝えることによって、出版社がより巧みになっていくのであれば、それもまた事実として伝えるしかありません。
人を騙そうとする人は策略を考える必要があるのでしょうけれど、おかしなことをおかしいと言って是正を求めることに策略など必要ありません。
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