欺瞞に満ちた米国のバイオ燃料政策
先日、野口義直氏の「米国バイオ燃料の政治経済学」(日本の科学者43巻1号、日本科学者会議発行)という大変興味深い論考を読みました。
アメリカはしきりにバイオエタノールを推進していますね。私は、これまでアメリカがガソリンの代わりとなる燃料としてバイオエタノールを推進しているのだとばかり思っていたのですが、これを読んで目からウロコ・・・でした。
著者の野口氏によると、ブラジルではバイオエタノールをガソリンの代替燃料として消費しているそうですが、アメリカではバイオエタノールそのものを燃料にしているのではなく、ガソリンの添加物として使用しているというのです。
自動車燃料として使われるガソリンは、原油を精製したガソリンにオクタン価向上剤というものを加えて製造されるそうです。
オクタン価というのは、ガソリンのアンチノッキング性能を示す数値で、この値が高いほど性能が良いそうです。ところが、かつてオクタン価向上剤として使用されていた四エチル鉛は人体に有害であることがわかり、使用が規制されました。
その代わりに登場したのがエタノールとMTBEというオクタン価向上剤です。そして石油業界はMTBEを選択しました。ところが、MTBEによる地下汚染が発覚し、MTBE禁止の動きが広まったのです。こうして石油精製企業はエタノールをガソリン添加物として使用せざるを得なくなったというわけです。
つまり、アメリカではバイオエタノールは化石燃料の代替エネルギーとして使われているのではなく、ガソリンの添加物にすぎません。そしてエタノールはガソリンの大量消費をつづけるために不可欠なのです。アメリカがバイオエタノールの推進を叫ぶのは、ガソリンの生産・供給を維持してガソリンを使い続けるためともいえます。
これでは地球温暖化防止どころか、温暖化を推進させることになります。アメリカが二酸化炭素の削減に積極的に取り組もうとせず、バイオ燃料の推進ばかりにこだわる陰に、こんな事情があるのです。
ところで、アメリカのバイオエタノール産業は、穀物メジャーのADM社とカーギル社に支えられています。また、原料となる作物には遺伝子組み換え作物が利用されるという仕組みがあります。遺伝子組み換え作物といえば、悪名高いモンサント社がありますね。
温暖化対策の名の下に大量の遺伝子組み換え作物をつくり、特定の穀物メジャーが、本来人間の食料とすべき穀物をガソリンの添加物にしているということです。ここから見えてくるのは、食料危機を加速させ、温暖化を促進させる恐るべき悪循環です。
アメリカは世界の4割のガソリンを消費しているといいます。欺瞞に満ちたバイオ燃料政策に、騙されてはなりません。
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