まやかしの育成天然林
6日付けの朝日新聞に「天然林の伐採 実態は」とのタイトルで、大雪山国立公園の皆伐問題に絡めて興味深い記事が掲載されました。
何が興味深いかというと、林野庁が使っている天然林に関する用語のことです。記事によると、林野庁は92年に天然林を「天然生林」と「育成天然林」に分けたそうです。そして当初、東京との面積とほぼ同じ22万ヘクタールを育成天然林としたが、06年にはその二倍の45万ヘクタールにまで増やしたとのこと。
「天然生林」とか「育成天然林」などというのは林業用語なので、一般の人にはよく分からないと思います。「天然」とついているのですから、人の手が加えられていない森林だと思われる方も多いかもしれませんね。
森林を区分する場合、あなたならどのように分けるでしょうか? まず、人手が加わっているか否かで分けると思います。人手の加わらない自然のままの森林を「天然林」といいます。これに対し、人手の加えられた森林を育成林といいます。ですから、はじめに「天然林(非育成林)」と「育成林」に分けるのではないでしょうか。「森林・林業百科事典」(丸善)によると、国際的には「育成林」と「非育成林」という区分が一般的で、育成林の中に「人工林」と「天然更新由来で人手の加えられた森林」が含まれているとのことです。わかりやすいですね。
ところが日本では「人工林」と「天然林」に分けています。そして伐採しても後継樹の育成を自然に委ねて放置している天然林を「天然生林」、植林などの人工的な更新や保育を加えた天然林を「育成天然林」と呼んで、ともに「天然林」に分類しているのです。人手を加えた森林でも「天然林」なのですから、なんとも理解に苦しみますね。
では、天然林の一部を皆伐し、植林をしたらどうなるでしょうか? 天然林の中に人工林ができることになります。そういうのを拡大造林と呼んでいます。大雪山国立公園の皆伐はその例です。ところが、林野庁の定義ではそのような森林は「育成天然林」であり天然林の一種になってしまうのです。天然林の中に人工林をつくっても、表向きには天然林の面積が変わらないということにほかなりません。
「育成天然林」を増やすということは、それを隠れ蓑に拡大造林をすることだといえるでしょう。こういうのをまやかしといいます。日本特有のおかしな林業用語に騙されないようにしなければなりません。
朝日新聞の記事は、その盲点を鋭くついているということです。
林野庁は「天然生林施業」で過剰な伐採を行って天然林をボロボロにし、「育成天然林施業」で天然林を人工林に変えてきました。こうしたやり方で、日本では、人手の加えられていない天然林はほとんどなくなってしまったといっても過言ではありません。国立公園の中でさえそうだということです。
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