著作者保護制度で思い出した名誉毀損裁判
文芸社は「著作者保護制度」を新聞広告やホームページなどでアピールしています。出版の勧誘をするときにもこの制度について説明していますが、倒産などの不測の事態に備えて、著者からの出版委託金を信託財産化して管理するというものです。著者の負担金を「出版委託金」と表現することは不適切だと思いますが、こうした制度自体はいいでしょう。
ただ、私がちょっと不思議に思うのは、そのような制度を紹介するにあたって元警察署長や弁護士の名前を持ち出していることです。元警察署長や日弁連の副会長が関っているのであれば安心できるということなのでしょうか。
田宮甫弁護士は、文芸社が渡辺勝利氏を名誉毀損で提訴したときの裁判の主任弁護人でしたから、私は名前を覚えていました。そして、田宮甫弁護士の名前をほかの名誉毀損裁判で見た記憶がありました。たしか消費者金融の武富士に関する裁判です。その記憶をたどっていくと、「武富士の闇を暴く」(同時代社)という本を書いた弁護士さんたちや版元が武富士から訴えられた裁判の武富士側の弁護士であったことにたどりつきました。田宮甫弁護士が、武富士側の代理人弁護士であったことは、以下の週刊金曜日のサイトに書かれています。
さて、その裁判がどうなったかは以下に書かれています。ぜひ読んでみてください。
この記事によると、一審でも控訴審でも武富士は敗訴しています。そして、一審の判決では「社会通念上十分非難に値する行為があった」と武富士を非難しました。
武富士は控訴したのですが、控訴審では「「控訴人会社(武富士)は、(告発本『武富士の闇を暴く』の)本件各記述の内容が真実であるか否かについて、本件各記述にはその重要な部分において真実が含まれている蓋然性が多分にあることを認識していたか、又はその調査検討によって容易にその蓋然性を認識し得たのに、批判的言論を抑圧する意図又はそのような意図を持つ力に支配されて、(『武富士の闇を暴く』が名誉毀損だとする)甲事件を提訴したものと推認するのが相当である」と一審より踏み込んだ判断をしました。
さらに、「このような訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当を欠くと認められるときに該当し、違法な行為というべきである。したがって、控訴人ら(武富士と武井氏)は、被控訴人ら(新里弁護士ら)に対し、共同不法行為に基づく損害賠償義務がある」としたのです。
つまり、この名誉毀損裁判は武富士が批判的言論を抑圧するために起こしたものであり、提訴自体が裁判制度の目的に照らしても違法というべきものだと厳しく批判したのです。さらに「言論、特に執筆者も出版責任者も明らかにして出版された書籍中の批判記事に対しては、資料の裏付けのある言論によって応酬するのが民主主義社会における表現活動の当然の在り方」ともしています。言論には言論で対抗せよということですが、当然のことでしょう。
武富士はほかにも批判記事を書いたジャーナリストの三宅勝久さんなどを提訴して負けています。いくつもの名誉毀損裁判を起こしているのです。
そういう言論弾圧ともいえる名誉毀損裁判を起こした武富士の代理人に田宮弁護士がいたのです。日弁連の副会長がこのような裁判の代理人になっていたことに私は正直驚いたものです。
文芸社は田宮甫弁護士と懇意なのでしょうか。
企業が批判的な記事を書いたジャーナリストなどを名誉毀損で提訴することはときどきあります。マスコミではほとんど報じられませんでしたが、ネットなどではオリコンがジャーナリストの烏賀陽弘道さんを提訴した裁判などが話題になりましたね。烏賀陽さんは大企業による言論封じだとして闘っていますが、残念ながら4月にあった一審の判決では敗訴してしまいました。今は控訴審を闘っていますが、このような言論弾圧を許さないためにも控訴審では勝訴を勝ち取ってほしいものです。
いずれにしても、日本では批判封じのために高額な賠償を求める名誉毀損裁判がしばしば行われています。潤沢な資金のある企業が批判封じのためにジャーナリストなどを訴えるなどということを許していたなら、この国からは言論の自由はなくなってしまうでしょう。
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