皆伐をめぐる「不都合な真実」
大雪山国立公園の幌加とタウシュベツで、台風による風倒木処理を理由に皆伐が行われたことは、新聞やテレビでも報道されました(「皆伐地あれこれ」参照)。風倒木被害といえば1954年に北海道を襲った洞爺丸台風のことが必ずといっていいほど引き合いに出されますが、大雪山国立公園でも場所によっては風景が一変するほどの倒木が発生したという話はよく聞きます。
どんな状況になったのか写真を見てみたいと思っていたのですが、最近になって洞爺丸台風の被害を受けた森林の写真を見る機会がありました。確かに、山の斜面をなめるように「根返り」や「幹折れ」が発生しており、凄まじさが伝わってきます。風倒木の状況は場所によってかなり違うようですが、層雲峡は特に酷かったそうです。
しかしよくよく写真を見ると、大半の木が倒れたり折れたりしていても、すべての木が倒れているわけではありません。何とか倒れずに立っている木もあります。稚樹や幼樹のあるところでは、苗木を植えなくても自然に森林が回復したそうで、植えたところより回復が良かったとも聞いています。
この写真は風倒被害を受けて収穫調査をしているものの、まだ風倒木を搬出していない現場です(十勝東部森林管理署管内、2007年10月撮影)。ここでも将棋倒しのように木が倒れていますが、すべての木が倒れてしまっているわけではありません。
では、幌加やタウシュベツの皆伐地はどんな状況だったのでしょうか? 昨年の10月に幌加の皆伐地で森林管理署の職員に説明を受けたとき、「ほぼ一本も残らず倒れた」と説明されたのです。私は内心「ええっ?」と思いました。皆伐地の境界はきれいに線引きされているのですが、倒れたところと倒れなかったところの境界が、こんなふうにきれいに線引きされるなどということはまずあり得ないでしょう。周辺部は倒れなかった木も多かったのではないでしょうか。
そこで、「写真はあるのですか?」と尋ねと、即座に「写真はない」というのです。風倒木を運び出し販売するというのに、現場の写真も撮っていないなどということは常識では考えられません。誰だって不審に思いますよね。
ところが今年の6月初旬に再び森林管理署の職員に説明を求めると、今度は「パソコンに写真が入っていた」と説明を一転しました。ただし「場所が特定できる写真ではない」というのです。森林管理署はヘリで被害状況を調べていることもあとで分かったのですが、「ヘリからはビデオしか撮っておらず、それも素人が撮っているために不鮮明で被害範囲がよくわからない」という説明でした。要するに、見せられるような映像はないというわけです。
洞爺丸台風の風倒木の写真を見て、森林管理署がどうしても写真を見せたくない理由が分かった気がします。かなりの木が倒れたことは想像がつくにしても、「全部倒れた」ということではなかったのではないでしょうか。少なくとも、周辺部の木や稚樹・幼樹はしっかり立っていたことでしょう。立っていた木も伐り、稚樹や幼樹もブルドーザーで潰してしまったのです。だから「不都合な真実」を明らかにしたくないのではないでしょうか。
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