出版社の内情
一昨日と昨日の記事に関係するのですが、草薙さんの本の件で講談社が設置した第三者委員会の報告書が講談社のHPに掲載されていて、この本の出版に関係した人たちの話などがかなりリアルに書かれています。
一般の人たちにとっては、一冊の本ができあがるまでに出版社の内部でどのような人たちが関り、どのようにして取材が行われ、どんな議論がなされているのかといったことは全くわからないものですが、この報告書によって日本で一、二位を誇る大出版社の編集者の対応や内情が垣間見え、なかなか興味深いものがあります。
大手出版社の場合は雑誌やコミックスの収益でやりくりしているところも多いと聞きますが、ノンフィクションというのはこの両者に関ってくる話題になります。例の「僕はパパを殺すことに決めた」も、はじめは雑誌でとりあげ、そのあとで単行本になったわけですが、このような題材では雑誌と書籍の両方で収益に結びつけられるわけです。
ところが、雑誌の編集者と単行本の編集者とではちょっと感覚が違うようで、調書の扱いにしても雑誌のほうがはるかに慎重だったといえます。さらに、書籍の編集者も調書の引用や家族のプライバシー問題については内心気にしていて、法務部でのチェックを引き伸ばしていたことなども赤裸々に書かれています。法務部に校了済みのゲラが届けられたのは発売の一週間前で、すでに印刷が始まっていたとのこと。こんな状況なのですから、出版社の法務部というのは事前チェックよりも事後対策のためにあるようです。
一冊のノンフィクションを作り上げるときに、著者、編集者、取材相手などさまざまな人が関ってくるのですが、それぞれの本に対する思いや期待が微妙に違っているのですね。そして、著者や編集者の意図と、取材に応じた医師や親族の想いにズレが生じてしまっている。それがまた、今回の事態を誘発してしまったのではないかとも感じられます。著者や編集者が、取材相手が取材に応じた理由を理解して書籍に反映できなければノンフィクションとはいいがたいのではないか・・・。そんな思いを抱いてしまいました。
ところで、ちょっと気になったのがこの本の制作費です。膨大な量の調書を写真撮影したのは出版社側のカメラマンで、著者が手伝ったとのこと。ノンフィクションの場合は取材のための費用もバカにならないはずです。編集にしても何人もの編集者が関って何ヶ月もかけていることになりますから、かなりの制作費をかけているのでしょう。大手出版社の場合は編集者の給料も高額でしょうし。
その一方で、取材費などかからない本もあるはずです。こうなると書籍の制作費用というのは本当にピンキリといえるのでしょう。
一口に「書籍制作費」といっても、著者の原稿をほぼそのまま本にしてしまうような共同出版社や自費出版社と大出版社では雲泥の差が生じてくるはずです。
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