分類って面白いの?
今、ある方から送られてきたクモの標本の同定作業をしています。つまり、名前を調べる作業です。
クモの場合、大半の種が網羅されている図鑑がないために、図鑑に出ていない種は記載文献に当らなくてはなりません。また、同定するためには実体顕微鏡で生殖器を観察します。しかも今、見ているクモの多くは2ミリ前後の小さいものばかり(もちろん成体です)。それで、けっこう時間がかかるのです。
同定作業というのは一種の職人技のようなものなので、慣れてくると「感」がだいぶ働くようになるのですが、ときには「何これ?」と科名も考えこんでしまうものに出くわすことがあります。かなりオタクの世界でしょうね。
さて、そんな地味なことをやって何が楽しいのかと思う人もいるでしょうね。生態学などをやっている人から「分類のどこが面白いのか?」なんて言われることもあります。もちろん機械的に同定することが楽しいわけではありません。同定しながら、生物の基本単位である種について考えることが楽しいのです。
大半のクモは、生殖器の形態だけで種の同定ができます。ところが、中には生殖器だけでは同定できないクモもいるのです。例えばハリゲコモリグモの仲間の雌では生殖器はそっくりで、どうにも同定できません。生殖器はごくわずかな違いしかなく区別が困難なのに、見た目は明らかに異なるという種もあります。かといえば、同じ種でも別種かと思えるほど変異に富んでいるものもあります。でも、確かに「種」という枠のような境界が存在するのです。不思議ですね。
また、同定作業をしていると、いろいろと種について考えさせられます。たとえば、ある種はどうして地理的変異が大きいのか? Aという種が生息しているところは湿度が高い森林に限られるようだ。BとCは近縁だか成体の出現時期は異なっている。Dという種はなぜ人為的な環境に多いのか? などなど。生息環境や分布などと合わせて種を見ていくと、さまざまな興味が湧いてきます。
同定によって種を認識し、その種について考えるというのは、結局は連綿と続いてきた進化の流れの「今」という断面を見ているにすぎません。その陰には壮絶な競争、適応と種分化、そして絶滅の歴史が隠されています。そんなことを考えていくと、とても深くて興味深い分野なのですね。
でも、そんなことに興味を持つのはやっぱりオタクなんでしょうね。
それにしても手元には不明種が山のように溜まってしまいました。何とかしなければ、と思ってはいるのですが、毎年増えるばかり…。ああ、困った!
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