本を売るということ
私は自分自身の経験からも、書店流通を謳った共同出版社に多くの人が引き寄せられる心境がよくわかります。できることなら誰だって費用負担なしに商業出版として本を出版したいでしょう。でも、多くの商業出版社はアマチュアの原稿は相手にしません。そこで、著者が費用を負担しても流通を約束してくれる出版社に惹かれるのです。
ところが、書店流通を謳っていた碧天舎や新風舎の場合、大半の本がほとんど売れていなかったわけです。これは碧天舎や新風舎に限ったことではないでしょう。
では、アマチュアの本は絶対に売れないのでしょうか? 売るべきではないのでしょうか?
私は文芸社とトラブルになったあと、「自費出版Q&A」(渡辺勝利監修、東京経済)という本に出会いました。その本で知ったのは、自費出版であっても商業出版と同じように取次を通した委託配本を扱っている出版サービス会社があるということです。
では、委託配本している出版社と契約すれば売れるのでしょうか? 答えは否です。
取次に委託配本してもらうためには、その本が商品として完成されていることが必要なのです。「[考察]日本の自費出版」(渡辺勝利著、東京経済)にはこう書かれています。
「自費出版本をこの正常ルートに乗せるとき、自費出版のにおいが少しでもあれば、搬入部数を極端にしぼられるか、受け付けてさえもらえない。本が売れる商品として認められなければ書店へ流通することはない」 出版社は新刊を出版すると、取次に見本を届けて流通させたい部数を伝えるのですが、最終的に何部を流通させるかは取次の判断になります。つまり、取次では本のタイトル、体裁、編集や定価、著者の知名度などなど、さまざまな角度から判断して流通部数を決めるのです。
このために、自費出版の本を流通させるためには買ってもらえるような魅力的な内容であることが必要です。アマチュアの方の原稿は、玉石混交というのが実態でしょう。出版社が書店流通を売りにするのであれば、そのような作品の中から光るものを選び、プロの編集者が徹底した編集を行ってクオリティを高めることが不可欠なのです。カバーデザインも重要な要素になります。こうして「自費出版のにおいがしない」レベルまで高めなければ取次は相手にしないということです。
売れる商品としての本づくりをするためには、商業出版と同じ本づくりが求められるのです。こうした自費出版の精神、あり方を知って感銘をうけたものです。もちろん、そのような本づくりにはそれに見合った費用がかかることになります。費用の安さを謳う出版社にはできないでしょう。
共同出版社ではごく一部の本を除いて取次を通じた委託配本をしていないようですが、それはとりもなおさず委託配本できるような質の高い本づくりをしていないからともいえるでしょう。
取次の委託配本の関門を通るためには「売れる本」を目指さなければならないのです。著者が「売りたい本」をつくっただけでは取次は相手にしませんし、まず売れません。著者は委託配本のための経費を負担したものの、配本部数が少なく、ほとんど売れないということにもなりかねません。
アマチュアの方が商業出版と同じように書店に本を置いてもらいたいのであれば、商業出版社に原稿を持ち込むか、あるいは商業出版と遜色のない本づくりをしている自費出版社を探すべきだということです。書店流通を謳った自費出版社が多数あるなかで、売れるための本づくりをしている出版社を探すのはなかなか大変なことですが、出版社選びこそ悔いのない出版の決め手になると思います。
また、販売に向かないジャンルというものもあります。たとえば自分史とか詩集、歌集、句集などといったものです。たとえ内容がよくても、売れないジャンルなのです。
著者がお金を払って出版をするのであれば、何のために出版をするのかよく考えて、目的にあった出版社をじっくりと探すのが一番ではないでしょうか。
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