リタイアメント情報センターの責任
「新風舎商法を考える会」や「リタイアメント・ビジネス・ジャーナル」と深く関っている「NPO法人リタイアメント情報センター・自費出版部会」が、16日に「新風舎への公開質問状」、「消費者のための流通させる自費出版チェックリスト」、「消費者保護のための自費出版営業・契約ガイドライン」を公開し、記者会見を開きました。
この公開質問状とガイドラインの賛同人は、「考える会」の尾崎浩一氏・目森一喜氏のほか、自費出版業界の方が3人、新風舎の原告が1人、それ以外のNPO関係者が1人となっています。
自費出版部会がガイドラインを作成するということは以前から伝えられていたので気にはなっていたのですが、内容を読んでみて、予想どおりといいましょうか・・・懸念していたことが現実となってしまいました。
何を懸念していたのかといえば・・・このガイドラインは共同出版社の契約内容の視点(言い換えれば、著者が制作費を負担する条件での商業出版契約を結んだ著者の視点)で書かれているのではなく、あくまでもその実態が自費出版と変わらないということを前提とし、請負い業者の視点で書かれているということです。
著者=顧客=消費者を前提としているということ、そして共同出版商法の本質的問題点が明記されていないことに大きな疑問を感じます。
著者が消費者であるかどうかについては、すでに共同出版と消費者問題で書いたとおり、私は新風舎や文芸社の契約形態においては、著者は断じて消費者ではないという立場です。
完売しても増刷しても費用を絶対に回収できない内容の制作請負契約・販売委託契約であれば、著者を消費者だと言っても問題ないでしょう。しかし、多くの共同出版業者の契約形態は出版社と著者が出版費用を分担する条件での商業出版の契約です。つまり出版社が自社の商品を販売して売上金を得ることを目的とした出版であり、著者が出版社に出版権の独占を認めて制作費の資金提供をし、その見返りに印税や一部の本の贈呈をうけるという契約です。これは文芸社も認めていますが、請負契約(サービス提供の契約・消費者契約)ではありません。
これまで何度も書いてきましたが、この契約では出版社も費用負担・リスク負担をするという内容ですから、著者=顧客にはなり得ません。そうであったらおかしいのです。ところが不思議なことに、多くの自費出版業者はこれを疑問視せず所有権問題にこだわります。自費出版業者にとって著者が顧客であることが前提だからでしょう。
問題とされる共同出版では、契約上は著者は消費者でも顧客でもありませんから、著者=顧客=消費者という前提で共同出版問題を捉えるのはあまりにも問題があるといえます。
このガイドラインによれば、新風舎は問題だが、「印税タイプ」のほかに「売上金還元タイプ」を提示し、「著作者保護制度」「提携書店」を掲げ、書店の「棚借り」をし、契約書に納期(共同出版は請負契約ではないので納期という言葉は不適切。発行日とするべき)を記載している文芸社は問題ないと解釈でき、文芸社の出版形態を容認しているといえます。クレジットも消費者用なら勧めるのはOK???
また「自費出版」の定義づけを明確にしないで「自費出版」という言葉を使用しているのも疑問です。ちなみに、私はこれまで書いてきたように「自費出版」は著者が事業主体となり、著者がすべての費用・リスクを負担する出版であり、出版サービス会社と制作請負契約・販売委託契約をするものと定義づけています。おそらくこれは(商業)出版業界での一般的な認識ではないでしょうか。
新風舎問題ばかりがクローズアップされるなかで、このようなガイドラインを公表し記者会見した以上、リタイアメント情報センターは社会的に大きな責任を持つことになります。
自費出版部会に参加されている自費出版業界の方たち、とりわけ部会長である渡辺勝利氏は、かねてから精力的に共同出版に疑問を呈してきた方であり、私はその活動に敬意を表してきました。しかしまた、渡辺氏のこの問題に対する視点について、温度差を感じていたのも事実です。その温度差が、このガイドラインに対する私の見解に表れています。
これまで共同出版の是正を求めてきた自費出版業界の方たちに敬意を表する一方で、このいかんともしがたい温度差・視点の相違に戸惑い、今後の成り行きを懸念しているというのが私の率直な感想です。
商業出版業界では、文芸社や新風舎と同じように「著者が出版費用の一部を負担する条件での商業出版」を行ったり、相当数の買い取りを求めている出版社が多数あるようです。見方によってはグレーゾーンといえるかもしれません。しかし、実際に出版社が費用負担・リスク負担しているのであれば、それ自体は合法的といえるでしょう。
問題はそれと同じ契約形態をとっていながら、実際には出版社がなんら費用負担しておらず、著者を顧客にしている出版社の存在です。さらに、費用の分担は謳わず「自費出版」との名目で、著者を顧客として出版社の商品をつくる契約(請負契約・サービスの契約ではない)をさせる出版社の存在です。
契約と実態が異なるという矛盾点、そして出版社に一方的に有利で不公正な出版形態の横行こそ、悪質な共同出版・自費出版の本質的問題点です。
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