環境対策に隠された罠
10月に発行された、辺見庸氏の「たんば色の覚書」(毎日新聞社)を読みました。この本には「私たちの日常」と題して、2007年7月に京都で行われた講演会の草稿を修正、補充した原稿が掲載されています。
とても深い内容の話しなのですが、地球温暖化について非常に鋭い指摘がされています。とりわけ印象に残った部分を紹介しましょう。
「地球温暖化を加速させてきた大きな要因の一つは人間社会の生活のありかただけではなく、大小の戦争や核実験を挙げなければなりません。戦争とその準備はなによりも巨大な生産と消費の爆発的展開なのです。気候変動は二酸化炭素による温室効果だけが原因であるはずがない。しかし私たちは、温暖化を考えるときに戦争や核実験という重大な要因を捨象してしまう。そして、温暖化対策は『エコロジー』という言葉でくくられてしまうのです」
マスコミが報道する温暖化対策は、森林の二酸化炭素の吸収量だとか、バイオ燃料の導入、市民の節約などばかりで、戦争や核実験による環境破壊や温室効果ガスの増加にはほとんど触れられません。
しかし、アメリカによる戦争が多くの人を殺戮しているだけではなく、莫大な化石燃料を消費し、劣化ウラン弾で環境を汚染していることは現場に行かなくても容易に想像できます。戦車を動かすだけでも、大量の燃料が必要なのです。アメリカは戦争でいったいどれくらいの燃料を使い、どれくらいの二酸化炭素を放出したのでしょうか? 日本は、そのアメリカの戦争を支持して協力しているのです。
マスコミはそのようなことをどれだけ伝えてきたのでしょうか? むしろそのような側面をひた隠しにし、「エコ」だとか「環境にやさしい」などという言葉によって、環境対策を市民の努力の問題にすり替えているかのようです。
さらに、辺見氏は環境対策についてこのようにつづけます。
「私の予測はこうです。資本は2030年危機をも投資のチャンスと考えるにちがいありません。資本にとっていまや環境というものが巨大なビジネス・チャンスになっている。いまの資本主義の特徴は、環境と人間意識を商品化の二大目標としていることです」
そして、地球温暖化によって熱波やハリケーンに見舞われても、富裕層だけが快適な住環境を享受でき、貧困層は劣悪な生活環境で苦しむことになる。その結果、環境問題は厳しい階級問題にならざるをえない。ゴミを捨てるな、省エネにつとめろといったお題目やエコロジーの一般概念でことがすむ段階ではもはやない、と指摘しています。
地球温暖化の影響が目に見えるようになってきているなかで、アメリカや日本では格差が拡大してきています。そして、「環境」「エコ」を謳った企業が政府から優遇されてのさばっています。まさに、辺見氏が指摘している状況が進行し、末期的状態に向かっています。
正義をふりかざした戦争によって多くの人を殺戮し、環境を破壊して温暖化を促進させ、一方で「環境」をビジネスとし、弱者を切り捨てるアメリカ。そしてそのアメリカに追従し、協力しているのが日本であることを、私たち日本人は誰よりも深く受け止めなければならないでしょう。
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