クモはなぜ凍らないのか?
前回の記事では、クモはどこで越冬するのかについて書きました。ところで、私が最も疑問に思ったのは、氷点下30℃にもなる寒冷地でなぜ凍ることなく冬を越せるのかということです。
この疑問は、「虫たちの越冬戦略」(朝比奈英三著、北海道大学図書刊行会)という本を読んで解消しました。また、クモの耐寒性については田中一裕(宮城学院女子大学)さんなどが大変興味深い研究をされています。
誰もが知っているように、水の氷点は0℃です。ふつう水が凍るときには氷の核となる物質が必要ですが、何も混ざっていない純水な水はゆっくり冷やしていくと0℃でも凍りません。霧粒ほどの純水の場合はマイナス40℃くらいまで凍らないのだそうです。このように、通常なら凍ってしまう温度なのに凍らない現象を過冷却といい、凍りはじめる温度を過冷却点といいます。
氷霧やダイアモンドダストは非常に冷え込まないと見られないのですが、水の粒が非常に小さいために過冷却点にまで冷え込まないと凍らないからなのです。
クモもこのような現象を利用することで、かなりの寒さになっても簡単に凍ることはありません。一般に、体が大きいと凍りやすく小さいほうが凍りにくいといわれています。
クモが凍るといっても、実際に凍るのは体液です。体液には氷の核となるような物質は入っていませんので、0℃では凍りません。ところが、クモが餌を食べると消化管に食物が取り込まれ、凍りやすくなってしまいます。そこで、クモは秋になると餌をとらなくなり絶食状態になります。このようにして消化管の中から氷の核となる物質をなくすことで過冷却点を下げて、凍りにくくするのです。
でも、クモの体が水で濡れてしまうと過冷却点よりはるかに高い温度で凍ってしまいます。樹皮の下など、直接寒気にさらされるところで越冬するクモが、糸で袋状の住居をつくっているのは、体が濡れないようにするためなのでしょう。
凍らないためのもうひとつのしくみは、体内にグリセリンをつくることです。グリセリンが不凍液の役割をして、凍りにくくするのです。
土の中に潜りこむなどして寒さをしのぐだけではなく、凍らないしくみを持つことによって、小さなクモでもマイナス30℃の寒さを乗り切ることができるのですね。
でも、クモの場合は完全に体が凍ってしまったら死んでしまいます。驚くのは、昆虫のなかには完全に凍ってしまっても生きているものがあることです。コチコチに凍ってしまっても、融けたらちゃんと変態して成体になることができる昆虫もいるのです。すごいですね~!
人間は化石燃料を焚いて寒さをしのいでいますが、小さな生き物には驚くような不思議なしくみが備わっています。そうやって数億年かけて進化を遂げてきた昆虫やクモのなかには、人間による環境破壊や地球温暖化で絶滅の危機にさらされている種も少なくありません。
進化の歴史の重みを背負った地球の生物たちをこれ以上絶滅させることのないように知恵を絞るのが、私たち人間という生物の背負った責務ではないでしょうか。
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