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2007/11/08

「出版の価値」って何?

 共同出版社は、アマチュアの著者の作品を褒めちぎって「出版の価値がある」「世に問う価値がある」などといって契約を誘います。

 「出版の価値」という表現、とても曖昧で便利な言葉だと思いませんか? 決して「売れる可能性が高い」とは言わないで「価値がある」というのです。「出版の価値がある」って、どういう意味なのでしょうか?

 商業出版の場合は、「出版の価値」のある本といえば、まずは採算の採れる本、つまりは売れる本ということになるでしょう。出版社は営利企業ですし、しかも出版業界は非常に厳しい状況に置かれていますから、採算を無視することはできません。もっとも、採算が採れそうにないと思っても、企画することもあります。でもそのような本はごく一部でしょう。基本的には「出版の価値のある本」というのは「売れる可能性が高く、採算の採れる本」を指すのです。そして「出版の価値」があるかどうかは、編集者が決めることです。

 ところが編集者は、名前の知られていない一般の人が書いた原稿は、ほとんど相手にしません。それはほとんど「売れない」からです。たいていの原稿はボツです。それどころか、無名の素人といっただけで門前払いの出版社も多いでしょう。だから、商業出版の編集者は、アマチュアの著者に対して「出版の価値がある」などとはまず言わないでしょうね。たとえ費用の一部を著者が負担するという条件をつけたとしても、販売の困難な本に対して「出版の価値がある」などとは軽はずみに言わないでしょう。

 でも、商業出版社が売れないと判断してボツにする原稿でも、共同出版社は褒めあげたうえで「価値がある」といって販売を前提とした出版を勧めるのです。著者は褒め言葉と「出版の価値」という言葉によって、プロの編集者が認めてくれたのだと思い、「売れるかもしれない」と期待を抱いてしまうでしょう。

 それでは、共同出版ではなく、著者の注文によって本をつくる自費出版(請負契約)ではどうでしょうか? この場合、著者自身が出版したいと思って制作サービス会社に注文するのです。制作会社はお客さんである著者の注文を受ける立場であって、「価値がある」とか「価値がない」などと判断する立場ではありません。

 ただし、自費出版の本を販売すると謳った場合は、ちょっと違ってきます。アマチュアの書いた本はほとんど売れないのですが、中には書店に流通させて多くの人に読んでもらいたいような作品もあります。そのような本を、取次をとおして委託販売させる場合は、「販売する価値のある本」、すなわち読者に買ってもらえるような質の高い本づくりをすることが求められます。本を書店にどれだけ配本するかは取次が決めるのですから、売れそうにないアマチュアの原稿をそのまま本にしたところで、取次は相手にしてくれません。

 ですから編集者は優れた作品を選び、アマチュアの原稿に手を入れてレベルアップし、「販売する価値のある本づくり」を目指さなければならないのです。それでも、アマチュアの本を売るのは大変なことですから、この場合でも安易に褒めて「出版の価値がある」とか「世に問う価値がある」などといって勧誘しないのではないでしょうか。

 共同出版社が「出版の価値がある」などといって契約を迫るのであれば、それは結局のところ本の中身の価値のことを指しているのではなく、「出版社に一方的に有利な出版だから価値がある」ということなのだと思います。

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