頓挫した北海道自然歩道
前回の記事で書いたように、北海道自然歩道計画が策定され、北海道によって整備がスタートしました。十勝の「東大雪の道」ではじめに手がつけられたのは、大雪山国立公園の糠平から十勝三股の整備です。
もともと、糠平と十勝三股の線路跡地に歩道をつくることを要望してきたのは、この路線に架かっているコンクリートアーチ橋の保存と利用を進めている団体などでした。このような経緯があって、アーチ橋の見学できるコースを一番はじめに着手することにしたのでしょう。
アーチ橋を見学してもらいたいというのはわかります。でも、そのために長距離の歩道を整備してほしいというのがよくわかりません。アーチ橋の見学に訪れる人たちの大半はマイカーなのです。歩道に足を踏み入れても、また車に戻ってこなくてはならないのですから、長距離歩道を通して歩きたいなどという人は、ほとんどいないのが現実です。長距離の歩道など必要ないのです。
ところで、アーチ橋の中でもっとも人気のあるのが、「めがね橋」と呼ばれているタウシュベツ橋梁です。ここも、北海道自然歩道の枝道として整備が計画されていました。ここには林道があって車で入れますから、歩いて見にいく人など、ほとんどいません。
2004年の7月のことです。この「めがね橋」の近くで、若いヒグマが頻繁に目撃されるようになりました。若いクマですから、人間への警戒心が薄かったのでしょう。でも、「めがね橋」を見にくる観光客の多いところだから危険だとの理由で、地元自治体が駆除の許可を出し、射殺してしまったのです。
この駆除には呆れました。観光客の多い知床ではヒグマが頻繁に観察されますが、まずはゴム弾などで追い払い、場合によっては立ち入り禁止としています。駆除というのは最終手段です。
最近では、市街地の近くにクマが出てきても、簡単に射殺しないのが普通です。それなのに、人が住んでいない山の中の中の林道にヒグマが出てきたというだけで、すぐに射殺してしまったのです。国立公園であり、もともとクマの生息地であるところなのに、人間の一方的な都合で射殺してしまうという感覚には愕然としました。
その翌年の2005年には、糠平とメトセップ(糠平湖の北部)間の自然歩道が完成して供用が開始されました。予想どおり、ここを通して歩いている人はほとんどいません。そんなことははじめからわかりきっていたことです。
その後、三位一体改革によって、国立公園内の歩道整備は事業主体が北海道から環境省に移されました。メトセップから北側の「クマの道」を「人の道」にする事業は、環境省の事業となったのです。北海道はさぞかしホッとしたことでしょう。
2006年の新聞報道によると、北海道自然歩道のうち、7路線の整備計画を白紙に戻したそうです。何しろ北海道は財政難なのですから当然でしょうね。
そして、「クマの木」のもっとも多かった、メトセップから十勝三股までの歩道計画は頓挫しています。ここはもともと「人の道」ではなくて「クマの道」なんですから、クマさんが使うのが当然でしょうね!
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