野生生物を脅かすラリー
ラリーの問題点はいろいろありますが、まず指摘しなければならないのは野生生物に与える影響でしょう。
現在世界ラリー選手権が行われているところは、希少な野生生物の生息地となっている国有林です。ここには、シマフクロウやクマタカ、オオタカ、クマゲラなど、絶滅危惧種が生息しています。また、ナキウサギはコースのすぐ脇に生息しているのです。それだけではありません。ヒグマやエゾシカ、キタキツネ、エゾタヌキなどをはじめとした、さまざまな動物が生息していますし、絶滅危惧種の植物もあります。
そこを猛スピードで車が走り抜けるのですから、当然のことながら動物との衝突事故が発生します。実際にフロントグリルにアオジ(野鳥)を貼り付けたまま出てきた車がありました。昨年にはエゾシカとの衝突事故も発生したとのことです。大型動物との衝突は、重大な事故にもなりかねません。
林道は通常のスピードで走っている限りそう簡単に野生動物と衝突しないものですが、ラリーカーは何しろ猛スピードを出すのですから、避けようがありません。驚くなかれ、直線に近いところでは時速200キロメートル近いスピードを出すのです! 主催者は、競技が始まる前に野生動物を追い払うための前走車を走らせるのですが、それでも衝突事故が起きてしまいます。
もう一つは間接的な影響です。ラリーカーは改造車ですから、ものすごい騒音を発します。時には炸裂音も出します。さらに、世界ラリー選手権の場合は、上空からヘリコプターが監視しています。ですから、野生動物は車とヘリの爆音にさらされることになります。 それでもっとも影響を受けるのは、騒音などに敏感な猛禽類です。彼らは視覚も発達していますから、騒音だけでなく車や人に対しても警戒します。クマタカなど、定住性の強い猛禽類にとっては、かなりのストレスになると考えられます。
しかも、新得町のコースでは、コース脇にナキウサギの生息地が何箇所もあります。林道の路肩に生息しているのです。ここでは年間を通じて生息が確認されていますから、繁殖しているものと思われます。ナキウサギは騒音や振動に敏感で、排気ガスに弱いといわれていますから、ラリーカーはかなりのストレスになるのではないでしょうか。だからこそ、毎日新聞社はコース選定にあたりシマフクロウの繁殖地から約5キロメートル、ナキウサギの繁殖地からは約3キロメートル離すとしたのです。野生動物への影響を認識していたのですね。
ところが、主催者は2003年から、シマフクロウが近くで繁殖しナキウサギも生息する新得町の林道をコースにしました。主催者は、そこにシマフクロウやナキウサギが生息していることは恐らく知っていたのだと思います。なぜなら、そこではダム建設のためのアセスメント調査が行われており、シマフクロウやナキウサギの生息が確認されていたのですから。
2004年になってそれに気づいた自然保護団体が抗議したのは言うまでもありません。それでも毎日新聞社は2005年までラリーを強行したのです。そして、毎日新聞社が撤退した今でも、そのコースが使われています。主催者はいまだに自然保護団体に対して環境調査報告書も提出しなければ、説明会も開催していません!
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