北海道の天然林は何処へ
大雪山国立公園での伐採現場を見た翌日は、十勝東部森林管理署が管轄する天然林に出かけました。視察したのは、主に一昨年から昨年にかけて伐採が行われたところです。
このあたり一帯も過去に何度か択伐が行われ、古い切り株がたくさんあるのですが、全体的な印象は、前日の大雪山国立公園に比べたら大径木が多いということでした。直径が50センチから60センチくらいの木も残っています。前回の択伐では伐らずに残しておいたものでしょう。それを今、次々と伐っているのです。
ということは、裏を返せば場所によっては国立公園の森林のほうが痛めつけられているということではありませんか!
森林の木の量(蓄積量)や伐採する木の量は、材の体積で表されます。森林管理署では、5ヵ年ごとに伐採計画をたてていますが、十勝東部森林管理署の場合、平成16年度からの天然林での伐採量は年平均5万立方メートルを越えるとのことです。
一口に5万立方メートルといってもどのくらいの量なのか、なかなかピンとこないかもしれませんね。おおよその目安ですが、エゾマツやトドマツなどの針葉樹の場合、胸高直径(地上から1.3メートルの高さで測った幹の直径)が35センチの木で、材積が約1立方メートルです。ということは、直径35センチの木に換算したら、一箇所の森林管理署だけで一年に5万本も伐っているということになります。5年間だと15万本以上! おびただしい量の木が、天然林から伐り出されているのです。その天然林のほとんどが「木材生産林」ではなく、「公益林」として「保安林」に指定されているところです。
そして、疑問に思うのは「天然林択伐」「天然林受光伐」「風倒木処理」などの名目で、大径木が中心に伐採されていることです。本来は、「択伐」も「受光伐」も森林から木を抜き伐りし、それと同時に若木の生長を図って森林を更新させるための伐採なのです。ところが、どう見ても「更新」を考えて伐っているとは思えないんですね。
切り株から見る限り、値段の高そうな木を狙って収穫し、更新など考えていないとしか思えません。伐採する木は事前に収穫調査をし、ナンバーテープをつけたり、特殊なスプレーで印をつけることになっているのですが、そのような印が見当たらない不審な切り株すらあります。
「保安林」でありながら、大径木を狙い撃ちすることで森林の公益的機能をどんどん損ねているというのが、北海道の天然林伐採の現状でしょう。伐採によって森林の公益的機能を高めるなどというのはお題目だけ。
北海道では地球温暖化防止のために植樹を推進するようですが、その一方で国も北海道もなけなしの天然林を壊し、生物多様性を損ねているのです。現在の天然林の伐採は、日本も締結国になっている生物多様性条約に違反する蛮行といえるでしょう。
« 無残! 国立公園の森林 | トップページ | 「シッコ」にショック! »
「森林問題」カテゴリの記事
- 石狩川源流部の国有林違法伐採プレスリリースの考察(2011.10.17)
- 大雪山国立公園の石狩川源流部で驚くべき過剰伐採(2011.08.24)
- 越境伐採を隠ぺいした北海道森林管理局(2010.11.14)
- 石狩川源流部違法伐採合同調査での林野庁のおかしな説明(2010.10.18)
- 名前ばかりの「受光伐」(2010.09.26)
コメント