事実から見えてくるもの
相変わらず、新風舎の提訴が話題になっています。メディア批判誌「創」の9・10月号でも、長岡義幸氏の「自費出版業界トップ『新風舎』に相次ぐ告発の声」という記事が掲載されました。取材しているのは、新風舎を提訴した神山氏、リタイアメント・ビジネス・ジャーナル編集長の尾崎浩一氏、それと新風舎の元社員。私は、正直なところ「またこのパターンか・・・」と、愕然としました。
なぜ愕然とするのか。それは、以下の事実から読者の方に判断していただきたいと思います。
尾崎氏は、昨年8月に「危うい団塊ビジネス」とのタイトルのもとに、読売ウィークリーに2回にわたり碧天舎倒産にまつわる記事を書いています。この記事では、碧天舎の倒産をとりあげながら、文芸社に提訴された渡辺勝利氏などにもインタビューし、共同出版・協力出版の問題に言及しています。
私は、この記事を読んで、尾崎氏とコンタクトをとりました。ジャーナリストとのことですから、ネットで検索すればすぐに出てくると思ったのですが、なぜかジャーナリストとして出てきません。ようやくたどり着いたのが、リタイアメント・ビジネス・ジャーナルのHPでした。尾崎氏はその編集長だったのです。そのHPには、自費出版や碧天舎倒産のことがなどが掲載されており、これから新風舎の問題を取り上げるとも書かれていました。
私は、このHPを見ているうちに、いくつかの疑念を抱きました。ひとつは、尾崎氏が新風舎しか問題にしようとしないことです。共同出版問題は、文芸社をはじめとしていくつもの出版社が行っていることなのに、ジャーナリストを標榜する者がなぜ新風舎しか批判しないのでしょうか? しかも、彼は共同出版問題の本質論について触れようとしません。さらに、文芸社の本の紹介をしているのです。
そこで、これらの疑問について尋ねてみました。すると、「文芸社は取材に応じたが、新風舎は取材に応じない」、「新風舎はかなり経営的に危険な状況であり、危険度が高い方を取りあげて、被害を少しでも食い止めることが先決」などとの説明がありました。
また、HPで紹介している文芸社の本は、碧天舎の被害者の方が、文芸社の被害者支援によって出版した本だとのことでした。そういえば、このことは「読売ジャーナル」にも書かれていました。それをもう一度読み返すと、碧天舎の被害者で出版直前まで準備が進んでいたケースについては、文芸社が300部を35万円程度で出版するという支援をしているというのです。さらに、この記事を良く読むと、著作者保護制度を設けた文芸社を評価しているような書き方です。しかも、新風舎はこの時点では尾崎氏の取材に応えています。いくら文芸社が支援に乗り出したからといって、長期間にわって文芸社の本を紹介するのは不自然です。私の彼に対する疑念は、解消されませんでした。
さらに、疑問に思ったのは彼の記事の内容でした。リタイアメント・ビジネス・ジャーナルは、新風舎の松崎社長親族の不動産に1億円の根抵当権が設定されているというようなことまで取り上げたのです。なぜ、こんなことまで話題にしなければならないのでしょうか? まるで倒産を煽るかのような記事です。
尾崎氏は、新風舎と絵本の契約をし、解約交渉をしていたオリーブさん(ハンドルネーム)や、今回新風舎を提訴した原告の神山氏と、昨年の秋からコンタクトをとっていました。このお二人については、リタイアメント・ビジネス・ジャーナルでも取り上げられています。また週刊文春でも取り上げましたが、この報道に際しても尾崎氏が関与しています。さらに、尾崎氏自身が「リベラルタイム」2月号で、取り上げています。
オリーブさんは尾崎氏とともに消費者センターに交渉に行っていますが、消費者センターの相談員は、オリーブさんに新風舎の契約書が事業者との契約であることを告げています。それは正しい判断です。すなわち、新風舎の契約は、消費者契約法が適用されない事業者同士の契約なのです。ところが彼はかなり強引に職員に対応させたようです。私は彼に「消費者ではない」と指摘しましたが、その後も尾崎氏は「新風舎の契約における著者は、消費者である」という誤った主張をしています。
その後、リタイアメント・ビジネス・ジャーナルの関連団体である「リタイアメント・ビジネス研究会」が、文芸社から「始動するリタイアメント・ビジネス」という本を出版していることを知り非常に驚きました。この事実を知ってから、私は彼とのコンタクトを絶ちました。
いっぽう、新風舎のやり方に疑問をもった大宗氏は、マスコミに告発しました。これに乗ってきたのは大阪の毎日放送です。毎日放送の担当者からは、私に情報提供をしてほしいとの協力依頼がありました。私は、この問題は新風舎に限ったことではないので、一社だけの問題に限定しないなら協力するとの約束のもとに情報提供しました。ところが、その結果は見事に裏切られたのです。毎日放送は、3月12日に、憤慨本舗「ブームの自費出版『ここが変だ』」で、大宗氏の例を取り上げるとともに、神山氏や尾崎氏も紹介しています。結局、放送は新風舎一社だけを対象にしたものになりました。
そして尾崎氏は3月中旬に、オリーブさん、神山氏、大宗氏らとともに「新風舎商法を考える会」を設立したのです。偶然かもしれませんが、尾崎氏とともに世話人として名前を連ねていたM氏は、文芸社の関連会社である「たま出版」から本を出しています。
4月5日には、北海道文化放送の「のりゆきのトークで北海道」で共同出版の問題が取り上げられ、尾崎氏と神山氏が電話取材に応じています。そして、この放送日に合わせるかのように、この日の北海道新聞の朝刊に文芸社の全5段の大きな広告が載ったのです。それまでの文芸社の広告はその半分の大きさでしたから、このタイミングと大きさには驚きました。
4月17日には、2005年に新風舎で受賞した咲セリさん(ハンドルネーム)という方が、ブログで自分の出版の経緯やトラブルについて書きはじめましたが、この方も「新風舎商法を考える会」とコンタクトをとっています。
4月30日の朝日新聞には、「自費出版 団塊が主役」との見出しのもとに、文芸社があたかも問題がない自費出版社であるかのような記事が掲載され、文芸社の新聞記事への露出が目に付くようになりました。
また、6月に入ってからリタイアメント・ビジネス・ジャーナルでは新風舎と碧天舎のクレジット問題のことも取り上げました。クレジットなら文芸社も同じことをやっています。なぜ、文芸社は問題にしないのでしょうか?
そして、7月初旬には「新風舎商法を考える会」に集まった方たちが新風舎を提訴したのです。以前にも触れたように、その提訴の内容は販売についての説明だけを問題にしたもので、きわめて稚拙な内容の訴状です。文芸社など他の共同出版に共通する本質的問題点については一切触れられていません。それどころか提携書店に並ぶ文芸社なら問題ないとすら受け取れるような内容です。いったい何のために集団提訴したのでしょうか?
原告らは集団提訴にあたり記者会見をしたので、マスコミが一斉報道することになりました。この提訴について、さっそく読売ウィークリーで記事にしたのはやはり尾崎氏です。それに追随するかのように、長岡氏が尾崎氏や原告の方などを取材して「創」で報道しました。
「新風舎商法を考える会」に連絡を取れば、対応するのは尾崎氏のようです。2月にMy News Japanで新風舎商法を取り上げた石井政之氏の取材源も、やはり尾崎氏と関わりをもった神山氏やオリーブさんです。そして、7月に入ってから、碧天舎の被害者組織と「新風舎商法を考える会」のサイトはお互いにリンクを張るようになり、協力関係を持ったようです。
尾崎氏は、私には新風舎が倒産したら、本もでなければお金も戻らない被害者がたくさんでてしまうことを懸念し、経営的に危険な状態にあるから、それを防がなければいけないと説明していました。私もそれには同感です。でも、彼が実際にやっていることは、本当にそのような被害者が出ることを防ぐための行動でしょうか? 私には、逆に倒産を煽っているようにしか思えません。新風舎が倒産しても、共同出版の本質的な問題が報道されなければ、著者は他の悪質出版社と契約して新たな被害者を生むことになるでしょう。そのことをいったいどう考えているのでしょうか?
昨今の新風舎をめぐる報道の大半に尾崎氏が関与しており、現在それによって新風舎のことばかりが報道され、新風舎ばかりが追い詰められている状況といえるでしょう。新風舎の被害者でもなくジャーナリストを名乗る尾崎氏が、共同出版全体を批判するポーズをとりながら、新風舎だけの被害者組織を立ち上げ、執拗に新風舎だけを批判し報道を煽る姿勢は、不自然としか感じられないのです。
これまで私は、個人的な批判は極力差し控えてきました。しかし、ジャーナリストであれば、自らの行動や報道に責任というものがあるはずです。尾崎氏の言動は、ジャーナリストとしての規範を逸しているとしか思えません。
藤原新也さんが、ご自身のブログで文芸社についての情報収集を始められた理由も、同様ではないかと思います。
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