知床の七不思議
世界遺産に登録され観光客で溢れている知床には、しばらくは行くつもりはなかったのですが、先日、調査で羅臼岳に登ってきました。登山口から山頂(標高1660メートル)までの標高差は約1400メートル。暑さと日ごろの運動不足のためか、かなりバテましたが、いろいろ面白いことがわかりました。そんな知床での観察情報を簡単にお知らせします。
1 人怖じしないエゾシカ
知床ではエゾシカが増え、食害が大きな問題になっています。確かに、エゾシカがたくさんいたのですが、まったく人怖じせず、手が届きそうなところに車を止め、窓を開けて写真を撮っても逃げようとしません。まるで奈良の鹿公園のようです。角(袋角)に触った人がいたという話も聞きました。これにはびっくり!
2 広葉樹林の植物たち
知床の山といえば、大半が落葉広葉樹です。針葉樹はトドマツが少しありました。ほかにはハイマツくらいでしょうか。植物相としては、温帯要素が強いのでしょう。林床にはユズリハやツタウルシがたくさんありました。キウルシもあり、漆かぶれには要注意のところです。北に位置するからといって、植物相も北方要素というわけではないのです。ところが、ハイマツは標高450メートルくらいから尾根筋に広葉樹に混じって出現します。大雪山などと比べると、垂直分布が圧縮されたような感じです。
3 過去には伐採も
岩尾別あたりは伐採が入っていないのではないかと思っていましたが、古い伐根がありました。林道はありませんので、林道をつくって施業するようになる前の伐採ではないかと思われます。昔はこんなところでも伐っていたのですね。
4 変形した樹
途中に「極楽平」と名づけられた平坦な地形のところがあります。ここは風が吹きぬけるのか、ミズナラやダケカンバが垂直に伸びることができず、幹が横に這って奇妙な樹形になっています。積雪のあまり多くないところに分布するクマイザサもありました。風で雪が飛ばされ、あまり積雪が深くないのでしょう。植物の分布は、風や積雪にも影響されるのです。
5 少ないクモ
登山道を歩いていると、クモの存在が気になります。登山道の脇の植物に網を張っているサラグモ類やヒメグモ類、コガネグモ類などは目につきやすいですが、それらの網がほとんど見られません。ハイマツ帯に入ってからは、網を張らない徘徊性のタカネコモリグモとダイセツコモリグモは見られましたが、なぜかクモがとても少ないようです。どうしてなのでしょうか?
6 ダケカンバ帯のメボソムシクイ
本州や四国の亜高山帯針葉樹林帯には、メボソムシクイが生息していますが、北海道では斜里岳周辺のハイマツ帯から知床半島南部のダケカンバ林に生息しています。今回、羅臼岳でもダケカンバ帯で鳴声を確認しました。北海道ではなぜ斜里岳から知床半島にかけてしか分布していないのか・・・ とても興味のあるところです。
7 山頂の溶岩ドーム
羅臼岳は、およそ500年前に噴火したといわれています。山頂部の溶岩ドームは、新しい岩塊と、地衣類がたくさん付着した古い岩塊があり、一部が崩れ落ちています。岩の質や地衣類の付着の様子から、火山の歴史の片鱗がうかがわれます。クモが少ないのは、新しい火山であることと関係しているのかもしれません。
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