費用対効果の謎
公共事業を行うためには、巨額の費用を投じても効果の方が大きいから必要だ、という理由がなければなりません。そのために、費用対効果(投資効果)を算出することになります。大規模林道(緑資源幹線林道)も、費用対効果が算出されており、机上の計算では巨額の事業費を投入しても効果のほうが大きいという結論が導かれています。
でも、誰もが「本当に効果の方が大きいの?」と、率直な疑問を感じるのではないでしょうか? 何しろ、完成したところでも交通量は少ないし、大雨のたびに崩れて維持管理費はかさむし、自然破壊によって森林の公益的機能を低下させているのです。
近年は、道有林では木材生産を目的とした伐採はやめ、森林の公益的機能を重視した施業をすると、方針転換しました。国有林も木材生産より森林の公益的機能を重視する政策を前面に出しています。木材生産を重視しないのに、なぜ新たな林業用の道路が必要なのでしょうか? 大規模林道がなくても、既存の林道で森林の管理は十分に行えるはずです。
林野庁の算出した「費用対効果」の数値は、いったいどうやって出されたのでしょうか?
大規模林道の効果として、それができた場合のさまざまな「便益」が算出されます。たとえば「木材生産便益」「森林整備経縮減等便益」「一般交通便益」「森林の総合利用便益」など。「木材生産便益」とは、大規模林道ができることによって増える木材の売上ではなく、運搬費などが軽減されることによる便益を指します。要するに「節約」される費用です。
北海道の「平取・えりも線」の「様似・えりも区間」は、全域が道有林ですから、木材生産目的の伐採は行わないところです。ここでは林道建設費が71億9千万円に対し、費用対効果が82億円と算出されており、投資効果は1.14で「効果あり」と結論づけられています。そして、82億円の効果のうち、約70億円は「木材生産等便益」なのです。
とても不思議な数字ですね! 木材生産をしない場所で、木材生産に関わる費用が70億円も節約されるというのですから。いったいどんな計算をしたら、このような数字がはじき出されるのでしょうか?
さて、さらに不思議なことがあります。林野庁は、この費用対効果分析結果のうち「木材生産等便益および森林整備費縮減等便益の積算に関する文書」を廃棄してしまったというのです。大規模林道が必要であることの根拠となる文書を、事業が終わっていないのに廃棄するなどということが、あり得るのでしょうか?
費用対効果の算出方法も不思議ですが、その元となる文書の廃棄は不思議を通り越して不可解・不審というしかありません。
必要性の根拠となる文書がないなら、大規模林道事業など、即刻廃止すべきでしょう!
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