樹木

2013年4月21日 (日)

興味深いカシワ林更新のしくみ

 本州で生まれ育った私は、カシワ林といえば海岸近くに純林をつくっている光景を思い浮かべるのだが、実は十勝地方では海岸だけではなく内陸部にまでカシワ林がある。かつて十勝平野は広くカシワ林に覆われていたといっても過言ではないだろう。しかし、開墾などによってその多くが伐採され、今では十勝のカシワ林は点々と残るだけの貴重な存在となってしまった。

 ところが、私たちの多くは十勝の原風景ともいえるカシワ林がどのようにして長年維持されてきたのかよく知らない。そこで、昨日、カシワ林の研究をされてきた植物研究家の若原正博さんに「カシワ林をもっと知ろう!」というタイトルで講演をしていただいた。大変興味深い話しだったので、簡単に紹介したい。

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 十勝平野は内陸にカシワ林が見られる珍しいところだが、なぜ内陸にカシワ林があるのかという理由は解明できていない。古砂丘だったことが関係しているのかもしれない。

 若原さんの主な研究フィールドは、帯広農業高校に隣接するカシワ林で、ここで20年ほど前にカシワ林の研究をした。

 「親木の下では子どもは育たない」と言われるが、カシワ林の場合もそれが当てはまる。カシワ林を横から見ると、枯死木や幹折れ木によって樹冠が途切れているところがある。そのようなところをギャップと呼ぶが、陽樹であるカシワの子どもが育つのはこのようなギャップである。また、カシワ林には、樹冠を覆う高木層と低木層があるが、その中間の層が空いていてすっきりした構造をしている。

 農高のカシワ林は林床がミヤコザサで、スカッとした林である。自然度が高く、林内には幹折れした木や野火にあった木も見られる。ここでシードトラップなどを利用して、種子の生産量などを調べた。

 カシワ林の特徴は萌芽株が沢山あるということで、これはカシワ林が更新するために非常に重要な存在。実生は一年の成長量が小さく、実生による更新は少ない。

 浜大樹の海岸のカシワ林は、海に近いところでは樹高が低いが、海岸から1kmくらい内陸になると内陸林と同じような林になる。

 カシワ林は以下のようなサイクルで更新されることが研究より分かった。

1haあたりおよそ250本の林冠木(林の上層部を覆う木)がある。

これらの木からドングリが約5万粒生産される。しかし、大半はゾウムシやエゾリス、カケス、ネズミなどの餌となる。また、ドングリは乾燥すると発芽能力を失うので、ネズミなどの動物が地面に埋めたものしか発芽できない。発芽するのは260株くらい。

芽生えた実生のうち1年目で5~7割が死に、2年目で2割が死んでしまう。

林床(ミヤコザサの下)には小さな苗木が1haあたりおよそ10,000株存在する(林内にランダムに分布)。これを萌芽株バンク(実生バンク)と呼ぶ。この萌芽株バンクが多いのがカシワ林の特徴。

ミヤコザサより樹高が高くなった株は、1haあたりおよそ670株ある。これは林内にある程度まとまって(集中して)分布する。

樹高が3~4mほどの株になると1haあたりおよそ400株ある。主に、ギャップ部分に集中して分布する。

 このようなサイクルによって、カシワ林は安定的に維持される。直径45cmくらいの太い林冠木の場合、200年以上経っていることが分かっている(ただし、日当たりの良いところに孤立して生えている木は成長が早く、太さと樹齢の関係は条件によって大きく異なる)。また、毎年1haあたり1本ほどの木が枯れる。

 最後にエコトーンについて説明があった。たとえばカシワ林が四角い区画として残されている場合、中央部の四角がカシワ林のコア部分になり、ロの字型の周縁部がエコトーンになる。このエコトーン部は外部と接触するところであり、外部からの植物などの侵入もあって生物多様性が高くなるが、カシワ林にとって重要なのはコアの部分である。もし、エコトーンの部分が削られてコア部分が林縁になると、そこは帯状にエコトーンとなる。その結果、コア部分が狭くなってしまう。

 つまり、林縁部を伐採すると重要なコア部分が狭くなってしまうことを認識する必要がある。

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 以上が若原さんの話しの概要だ。カシワ林を見て、「それなりに広いのだから、端の方を少しくらい伐ってもたいして問題はないだろう」と思う人も多いかもしれない。しかし、今では自然度の高いカシワ林そのものが貴重な存在だ。それを健全な状態で保全するためには、伐採を避けることが何よりも大事だということではなかろうか。

2012年11月26日 (月)

危機に瀕している更別のヤチカンバ

 先日、更別村を通った際にヤチカンバ自生地に寄ってみた。ヤチカンバは、周極分布をするヒメカンバの一種で、氷期に日本列島に分布していたものと考えられている。いわゆる氷河時代の遺存種だ。日本では更別村と別海町の湿原に分布している。おそらくかつては広い自生地があったのだろうが、開発によって大半が失われてしまったと思われる。更別村の自生地は北海道の天然記念物に、別海町の自生地は町の天然記念物に指定されている。

 更別村のヤチカンバ自生地は以前にも何回か見ているのだが、驚いたことに景色が一変していた。
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(写真:奥の白っぽい幹の木がヤマナラシ)

 以前とどう変わったのかというと、以前は背丈の低いヤチカンバ林が一面に広がっていたのに、今はヤチカンバの中に抜きんでるように若いヤマナラシが何本も立っているのだ。このまま放置したらヤマナラシが優勢となりヤチカンバを駆逐してしまうのではないか・・・。

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(写真:湿原に侵入するヤマナラシ)

 ヤマナラシは根萌芽をする。根萌芽とは、地下で水平に伸ばした根から芽をだして幹を立ち上げる性質のことだ。これによって、どんどん個体を増やすことができる。外来種のニセアカシアも根萌芽の性質がある。根萌芽する植物は、地上部を伐っても根が残っていればまた幹を立ち上げてしまう。だから、このような植物は一度侵入してしまうと駆除がとても困難になる。

 ヤマナラシがヤチカンバ生育地の中にまで侵入してきたということは、この湿原は乾燥化が進んでいるのではなかろうか。

 そこでちょっと調べてみると、更別村のヤチカンバ自生地は乾燥化が進み、自生地の面積も縮小していることが分かった。

氷河期の生き残り:ヤチカンバ(森林総合研究所北海道支所研究レポート

 このレポートによると、湿原外植物の侵入や乾燥化といった環境条件の悪化によってヤチカンバがストレスを受けているという。枯死率を下げるために、排水溝を埋め戻したり湿原外植物を取り除くなどの対策を提言している。

 このレポートが発行されたのは2004年7月である。8年も前にこのような問題提起と提言がなされていたにも関わらず、さらに環境条件は悪化して湿原外植物が広がり深刻な事態になっているのである。管理者は何の対策も講じてこなかったのだろうか。

 天然記念物に指定したり、レッドリストで絶滅危惧種に指定しも、それだけでは保護することはできない。ヤチカンバ林を保全するためには乾燥化を防ぐ手立てをするとともに、ヤマナラシなどの湿原外植物の駆除をするべきだろう。

2012年10月25日 (木)

ミズナラの樹上に生えたエゾマツ

 以前、「木の上に生えた木」という記事を書いた。今年、同じ場所に行ったのだが、このカツラの樹上に生えたエゾマツは、まだ健在だった。

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 こんなふうに高木の上に根を張った木はそうそう見られるものではないと思っていたのだが、先日、上川管内のとある林道でまた同様の木を見つけてしまった。

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 こんどはミズナラの幹から生えたエゾマツ。このミズナラは幹折れしたようだ。その際に幹に亀裂が入り、そこにエゾマツの種子が落ちて発芽したのだろう。

 エゾマツが生えているカツラの枝は枯れていたが、こちらのミズナラはまだしっかり生きている。

 地上に落ちたエゾマツの種子の大半は土壌中の暗色雪腐病菌によって育つことができない。このために、もっぱら暗色雪腐病菌がいない倒木の上やコケ地などに落ちた種子によって次世代のエゾマツが育つのだ。これを倒木上更新(倒木更新)という。エゾマツの森を存続させるには、風倒などで生じた倒木を処理してはならない。

 発芽できる条件があれば、樹上でもこんなふうにある程度は育つことができるのだろう。それにしても、このエゾマツはいつまで生き続けることができるのだろうか。

2011年6月16日 (木)

大量に飛散したエゾマツ花粉

 今年の春は本州でもスギ花粉が大量に飛んだそうだが、北海道でもエゾマツの花粉が大量に飛散した。

 エゾマツは毎年花粉を飛ばすのだが、花粉の時期は洗濯物も外に干せない。その量は年によって違うのだが、多い年は車の上がうっすらと黄色になるほど飛んでくる。

 今年はどうやら大当たりだ。少し前のことだが、朝、郵便受けから新聞を出すと、花粉がびっしりついてザラザラしていた。新聞も郵便物も外で花粉を払ってからでないと部屋の中が花粉だらけになってしまう。こんな年も珍しい。

 飛散した花粉を実体顕微鏡で見てみたが、ほとんどがエゾマツ(トウヒ属)で、トドマツ(モミ属)も少しだけ混じっていた。花粉では種の区別はできないが、属の区別はできる。

 黄砂が降ったときは雪が薄黄色に汚れるが、花粉の時期は地面がうっすらと白っぽくなることもある。昔は、大雪山国立公園の針葉樹林帯は今よりもずっとエゾマツの優先する森林だった。かつて営林署で働いていた人の話によると、花粉が大量に飛散した年は、まるできな粉をまぶしたようだったという。

 下の写真が花をつけたエゾマツだ。花をびっしりつけているので赤茶けて見えるが、遠目には枝先が枯れているかのように見える。

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 これは、地面に溜まった花粉。雨で流れて集まったのだろうが、すごい量だ。

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 こちらは然別湖の湖畔に浮かぶ花粉。

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2010年11月 9日 (火)

カラマツの黄葉の微妙なグラデーション

 今年の登山は10月1日の黒岳で終わりにする予定だったのですが、ひょんなことから7日に佐幌岳に登ってきました。佐幌岳は積雪もなく、気温も高めで、登山日よりでした。

 佐幌岳といえば、サホロスキー場の拡張計画が持ち上がっているところです。実際に登ってみて、現在のスキー場と、拡張が計画されている場所の位置関係がよく分かりました。サホロスキー場の拡張計画については以下の記事を参照してください。

サホロスキー場の不可解な拡張計画

サホロスキー場問題の詳細

 ところで、晩秋といえばカラマツの黄葉が美しい季節です。そしてカラマツの黄葉といえば、一斉に黄金色に色づいて、色彩の乏しい晩秋の景色の中でひときわ輝いて見えます。ところが佐幌岳の斜面のカラマツをよく見ると、木によって葉の色がずいぶん違い、まだ緑色のものから黄金色までさまざまな色の木が混ざっています。

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 今年はカラマツハラアカハバチが十勝でも大発生したのですが、このカラマツの黄葉のグラデーションはどうやらそれと関係がありそうです。つまり、ハバチの食害を受けなかったカラマツは黄金色に黄葉しているのですが、食害を受けて一度食べられてしまったものの、再び芽吹いた新しい葉は、今の時期でもまだ緑色をしているようなのです。

 シラカバなどは、早い時期に開葉した葉は早く黄色くなって落葉しますが、遅くなってから開葉した葉(枝先などの葉)は、黄色くなるのが遅くなります。これと同じような現象でしょうか。

 カラマツが黄葉する今の季節は、山から下界を見下ろすとカラマツの植林地が一目瞭然です。カラマツはもともと北海道にはない外来種ですが、よくこれほどまで植林したと思えるほどあちこちに広がっています。

2010年6月11日 (金)

渡島半島の森と植物

 遠いということもありこれまで渡島半島にはほとんど縁がなかったのですが、先日のイソコモリグモ調査で、渡島半島の風景はやはり道東とはかなり違って本州の要素が強いことを実感しました。

 なにしろ、植林されているのは圧倒的にスギです。トドマツやカラマツの造林地もあることはあるのですが、でもスギが大半。この風景だけを見たら、なんだか本州に来たような錯覚にとらわれます。もっとも全道に植えられているカラマツも本州から持ち込んだのですから、北海道の造林地は外来の樹種が非常に幅をきかせています。スギにしてもカラマツにしても成長が早いために造林木として使いたいのはわかりますが、やはりもともとそこにない樹種を山に広範囲に植栽するというのはどんなものでしょうか。

 もうひとつ道東や道北と違う印象を受けるのは、やはりブナの存在でしょうか。そのほかにも道南にしか分布していない樹木があります。イソコモリグモ調査のついでに、大千軒岳の登山口まで行ってみました。この写真は登山口なのですが、右側の木はブナで左側はサワグルミ。どちらも私の住んでいる道東にはないので馴染みがないのですが、サワグルミはいわゆるクルミの形をした実をつけません。樹形も日ごろ見慣れているオニグルミとは全く違います。こういう光景を見ると、やはり道南は本州との関連性が強いのだとつくづく感じます。

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 ところで、大千軒岳はシラネアオイの群生地があることで有名です。登山口に行くまでの間の林床にも点々とシラネアオイの優しい藤色の花が咲いていました。山の上の方には大群落もあるようですし、機会があれば登ってみたい山です。体力が一番心配ですが。

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 大千軒岳への林道からの景色もなかなか壮観です。道東では林道を車で走っていても、谷底にころげ落ちたら即お陀仏!という感じの、恐怖感を覚えるような峡谷は少ないのですが、道南の山々はけっこう急峻で、植生だけではなく地形も本州との共通性が感じられました。

 松前公園にも寄り道をしたのですが、ここにはツバキが植栽されていることを知りました。八重桜の花がまだ咲き残る時期に、ツバキの赤い花が咲いている光景はなんとも不思議です。何しろ、新緑と椿という組み合わせなのですから。松前から日本海側にそって北上すると、民家の庭先に常緑広葉樹とおぼしき庭樹が点々と植えられており、赤やピンクの花をつけていました。遠目にはツバキあるいはサザンカの園芸種のように見えましたが、こういう光景も道南独特のものでしょう。

 そういえば道南ではクモの採集記録などがほとんどありません。クモの調査においては空白地帯ともいえるところなのです。本州との共通種で道南だけから知られているクモもあります。いつかじっくりと調べてみたいものです。

2009年10月18日 (日)

木の上に生えた木

P1010312  先日とある林道に入ったところ、目を疑うような光景に出会いました。なんと見上げるようなカツラの木の横枝から、エゾマツが生えているのです。エゾマツの生えているところは、地上から10メートルほどはあるでしょうか。こんな不思議な光景ははじめてです。カツラの木は幹が根元で何本かに分かれているので、萌芽(ひこ生え)が育ったものでしょう。向かって右側は幹にはまだ葉が残っていましたから生きているのですが、エゾマツが乗っている方はすでに枯れているようでした。

P1010311  倒木の上に落ちた樹木の種子が発芽して育っていくことを倒木上更新(倒木更新)といいますが、このエゾマツは倒木ではなく立っている枯木の枝上で発芽して育ったのです。それにしても、よくこんな高いところで生きつづけているものです。ここまで育つまでに、何度も大風を経験しているに違いありません。決して地面に根を下ろすことができない場所に芽生え、風雨に負けずに枝にしっかりとしがみついて生きているエゾマツの生命力に、自然の不可思議さを感じずにはいられません。

2008年9月24日 (水)

ダケカンバと秋

Mikuniyamadakekanba  写真は、三国山のダケカンバ林です。今年は8月下旬にかなり気温が低くなったものの、9月になってから暖かくなってしまい、紅葉もきれいに色づかないようです。例年なら真っ赤に色づくナナカマドもくすんでいます。

 私が北海道の山に登ってとても不思議に思ったのは、針葉樹林帯の上部に見事なダケカンバの森林があることでした。

 本州の山では、亜高山帯になるとシラビソやオオシラビソなどの針葉樹林帯が現れ、そこを抜けると急に明るくなってダケカンバとハイマツが現れるのが普通だったと記憶しています。針葉樹林とハイマツ帯の間に明瞭なダケカンバ帯があるのではなく、針葉樹とハイマツの中にダケカンバが混在しているかのようで、存在感が薄いのです。

 ところが北海道では、針葉樹林の中に点々とダケカンバやナナカマドが混じり、針葉樹がまばらになってくるとダケカンバが優占し、やがてダケカンバの森林になります。そしてダケカンバが矮性状になってまばらになるあたりからハイマツが出てくるのです。

 このような本州と北海道の森林の違いは、地形や積雪、気象条件などによるのでしょうか。

 山によって森林の移り変わりの状況は異なるので、木の葉の色づくこれからの季節は樹木の分布を知るにはいい季節です。山肌をみると森林帯の移行していく状況がはっきりとわかるのです。濃い緑の針葉樹林と黄褐色のダケカンバの織り成す斜面に、ひときわ目をひくのがナナカマドの赤です。

 そういえば本州の山の紅葉の美しかったことが懐かしく思いだされます。かつて本州の山に登っていた頃は樹の種類などほとんど分からなかったのですが、深い紅色から明るい赤、黄色や褐色…とさまざまな濃淡の紅葉に染まった山肌は、北海道の紅葉とはまた趣を異にしていたようです。あれは樹種の多さによる違いだったのでしょうか…。

 どこまでも澄み切った秋の青空の下に、輝くような真っ白い雪を戴いた山々と紅葉の山肌…。都会の雑踏から抜け出し、冷たい空気に浸ってしばし別世界を楽しんだものです。    

2008年6月15日 (日)

ミズナラと霜害

 北海道の山々はすがすがしい緑に覆われました。多くの木は新緑をとおりこして、緑が色濃くなってきました。

Takinouesyamen  ところが先週、滝上町に向かっているとき、山の斜面にまだ緑になっていない木々が点々とあることに気付きました。写真の茶色っぽく見える木です。木の開葉の時期は樹種によって異なりますが、こんな季節になってもまだ葉を開いていないのはどうしたことか?

 そこで思い出したのが、霜害です。5月中旬に富良野のあたりを通ったとき、ミズナラの新芽が霜にやられて茶色くなっていました。そういえば、その少し前に強い霜が降りたのです。我が家のエゾマツの新芽も赤茶色になっていました。

 ヤナギなどは早くから葉を出しますが、ミズナラやヤチダモはいつまでも枯れ木のようで、「まだ~?」と思うくらい開葉が遅いのです。またトドマツとエゾマツではエゾマツの方が芽が出るのが早いのですね。早くから葉を開けばそれだけ早くから光合成ができるのですが、寒さに弱い新芽が霜の害を受ける可能性が高くなります。開葉の遅い木は、霜害のリスクを回避しているといえそうです。

 ところが今年のように春先の気温が高いと開葉の時期も全体的に例年より早くなります。霜を避けて遅めに新芽を出す戦略をとっていても、霜にあたると霜害を受けることになってしまいます。

 どうやら霜害を受けたミズナラは、その影響で開葉が遅れてしまったようです。なんだか皮肉ですね。

Kasiwanohana  こちらはサロマ湖のほとりにあったカシワの木。まだ葉は伸びきっていませんが、花が咲いていました。垂れ下がっているのは雄花です。カシワもミズナラと同じく開葉が遅いのですが、場所によってこんなに違うのですね。

2008年4月10日 (木)

ケショウヤナギの不思議な分布

 ケショウヤナギは、朝鮮半島や中国東北部、日本、サハリン、カムチャッカなどに分布するヤナギで、高木になります。日本では北アルプスの上高地と北海道の十勝地方や日高地方に分布していることが知られていましたが、その後、オホーツク海に注いでいる諸滑川にも分布していることが確認されました。昨日の記事「河原を彩るケショウヤナギ」はその諸滑川のケショウヤナギです。

 ケショウヤナギが生育しているのは礫の多い河川敷です。十勝には十勝川や札内川のように礫の多い河川がいくつもありますから、あちこちでケショウヤナギが見られるのです。

 ところが、礫の多いのにケショウヤナギが分布していない河川もあります。諸滑川の東に湧別川という川があります。この川も礫が多い河川なのですが、ケショウヤナギは分布していません。オホーツク海に注ぐ川でケショウヤナギが見られるのは諸滑川とその周辺だけなのです。北海道では十勝と日高に分布し、それと離れて諸滑川に分布していることになります。

 ヤナギ類は雌雄異株ですが、ケショウヤナギはヤナギでは珍しく風媒花です。近くに雄株と雌株の両方がなければ種子はできません。また、ヤナギの種子は風によって運ばれますし、一般に乾燥に弱くて短命です。ただしケショウヤナギの場合は1ヵ月ほどの寿命があるようです。種子が風によって数十キロほど運ばれることはあるでしょうけれど、落ちたところの条件が悪ければ発芽することはできません。つまり、それほど遠くまで分布を広げられないということです。写真は、裸地に一斉に芽生えたケショウヤナギです。

 諸滑川と湧別川は30キロメートルほど離れています。湧別川にケショウヤナギが分布していないということは、風によって諸滑川から種子が運ばれるには遠すぎるということなのではないでしょうか。

 本州でケショウヤナギといえば、上高地です。数年前上高地に行きましたが、河童橋のたもとには立派な老木がありますし、梓川の河原には若いケショウヤナギ林が茂っていました。私は、本州では上高地にしか分布していないとばかり思っていました。ところが、上高地から松本までタクシーに乗ったときに、新島々の近くの梓川にケショウヤナギがあることに気づきました。

 上高地は盆地上になっていて梓川の河川敷には砂利河原が広がっていますから、ケショウヤナギが生育できます。しかし、大正池のあたりは礫がないので分布できません。また、上高地と新島々の間は峡谷になっていて砂利河原がないのでやはりケショウヤナギは生育する場所がないのです。梓川が平野に出て砂利の河原が出てきたところにケショウヤナギが分布しています。ここのケショウヤナギは、種子が上高地から川の流れによって運ばれてきた可能性があります。

 それでは、なぜ東北地方をとびこして北海道と上高地に隔離分布しているのでしょうか。それこそ植物の分布の不可思議なところですが、簡単に近隣の地域に分布を拡大させることができる植物ではなさそうだということから考えるなら、かつてはもっと広く分布していたが、その後なんらかの原因で分布が縮小してしまったと考えるほうが自然です。

 北海道には氷河期にはカラマツと近縁のグイマツが分布していたといわれていますが、その後絶滅してしまいました。ケショウヤナギも、かつては日本に広く分布していたものが、今は上高地周辺と北海道の一部の地域にしか生残っていないのかも知れません。

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